TextAD
無料
-
出会い
-
花
-
キャッシング
「…アメリカ留学することが決まった」
「ホント? わぉ!!」
…喜ばれた。
海の向こう
アメリカ留学が決まった時は夢かと疑う程に嬉しかった。何度も担当の先生に確認してやっとこれが現実だと確信した。
同時に後ろめたくも思った。を裏切るような錯覚を覚えたからだった。
は平均的と称するのが適当な女だ。文武も人並みだったし秀でて器量が良いワケではない。
元々明るい性格であったがどこかネジが緩んでいて思考回路がどこか外れている。
山と言えば吉野が返ってき、花といえば川が返ってくる。天然で。
そんな人間だから普通の反応を期待していたワケではない。
彼女だからといって泣いてすがってくるとかには考えられなかった。
……逆に喜ばれるとも思ってなかったが。
「いーなぁアメーリカ。ガラガラのディズニーランドにブロードウェイにナイアガラ。自由とヤンキーの国!」
「……」
「あぁでもアイスとかフライドチキンとかバケツサイズらしいから気をつけないと太るよ駿!」
「……」
「そういえば銃も持てるんだよね。私もいつか撃ってみたいなー」
「……」
「しゅーんー? 起きてる?」
「起きてる」
「だったら何か言おうよ。私一人喋ってる変な子みたいじゃない」
いや既に十分変だから、さすがにその言葉は呑み込んだ。
すぐ目の前で訝し気な顔をしているにどう言葉をかければいいのかわからない。
取り合えず謝って椅子に座るように促すと満足したのか素直に椅子に座った。
朱色の夕陽が窓から差し込んで教室の半分を照らした。
「怒ると思ってた」
「は?」
「いや、だから…」
ダメだ。思考プロセスが食い違いすぎている。
俺の選んだ言葉の意味が本気でワケがわからないらしいが首を傾げている。
「……俺まだお前の彼氏だよな?」
「え、違ったの?」
「……」
頼む、察してくれ! 心の中で頭を抱えてみてもは呆けた顔をするばかりだ。
「会えなくなるだろ」
「ん?」
「一緒に下校もできないし休みに遊びに行くこともできなくなるし」
「うん」
「会えない間、何があるかわかんねぇし」
「あぁ…そうか」
はやっと今そこに思い至ったという感じで目を伏せた。
しかし床を一瞥するとはすぐ顔を上げる。黒い眼がいつもより深い色に見えた。
「でも」
一度言葉を切ってがゆっくり立ち上がる。
すると椅子の上に上りやっとのことで俺と目線を合わせた。
「駿はアメリカに行く。これは決定事項でしょ?」
そういって彼女は泣き笑いのような顔で破顔した。
思わず息がつまる。
を愛しいと思えたのはこれで何度目だろう。
思考回路が風変わりでも少々鈍感でも、この娘を愛しいと感じる自分は去年から変わっていない。
「アメリカって凄いんだよ。駿の好きなアメフトも盛んらしいし。アメリカマッチョ相手に戦うのって凄い良い経験になるよ」
しきりにアメリカを勧める言葉の中に彼女の感情は一片も見えない。
抱きしめれば、心の内を垣間見せてくれるだろうか。思考を端へ追いやる。
「俺がアメリカ行ってる間は他の男にホイホイついて行きそうだから怖い」
「えーなにそれ。駿だって向こうで現地妻作ってこないでよねー」
そう言っては椅子から降りるとどっかりとまた座りなおした。
「あぁでも、ブロンド美少女見つけたら一緒に写真撮って送ってね」
「俺はオマケかよ」
の優先順位:ブロンド美少女>彼氏
何で俺はコイツから離れられないのか不思議で仕方がない。
筧先生はいい具合にヘタレてるといいよ。
[PR]
動画