TextAD
無料
-
出会い
-
花
-
キャッシング
ヤバイ
何がヤバイって、赤羽さんが不機嫌だからですよ。
分類不可 5
シートに座り電車に揺られながら轟々と呻く車輪に耳を傾ける。
目の前に立っている赤髪のお兄さんはつり革を掴んだまま黙っている。
街にいる途中からなんかこんな感じだ。
隼人は元々そんなお喋りというタイプではないが押し黙ってるのは不機嫌な時だ。
直接口に出すワケじゃないけど、雰囲気がそう言ってる。
何だろう、何がいけなかったんだろう。
ヤ●ザがつけそうなサングラスを隼人につけさせて存分に笑ったことかな。
下着買うときに店の外で待たせたことかな。(いやでも普通に一緒に入ろうとする隼人もどうよ)
あー、思い当たる節があるだけにどうしようもないなぁ。
今この状況を打開する神懸りな妙案が天から降ってきやしないだろうか。
鞄を開ける。手品のネタでも詰まってれば楽しいだろうけど生憎普通の物しか入っていない。
財布にポーチに鏡にペン入れ。普通すぎる。
何か、なーんか赤羽さんの機嫌が良くなるような品物はなかろうか。
うわ、生徒手帳(CD)入ってる。何でこんなもの転がり込んだんだ。
「あ」
鞄の底に眠っていた生徒手帳を何気なく出すとひょいと上から延びてきた手に奪われた。
「これ…のか」
「そうですよ、恥ずかしいから返しなさい」
手を伸ばすと隼人は簡単に避けてまじまじと人の生徒手帳を見ている。
周りの人に見られたらどうするんだ。恥ずかしいの私じゃないか。
ご苦労にも入学式か何かで撮られた私ソロのアップ写真が表を飾っている。
「帰ったら聞かせてもらおうかな」
「断固拒否する」
生徒手帳を楽しそうに見ながら言う隼人に即答で拒否すると少し驚いたような顔をされた。
「そんな聞かれて困るような内容なのか?」
「いや別にいかがわしい歌詞でもないんですが……」
「フー……」
うわ、いま笑った。かなりうっすら笑ったこの人。
「それは帰ってからが楽しみだな」
結局私の生徒手帳は私の手元に帰ってくることなく隼人に奪われたままになってしまった。
私のCD、ちょっと特殊だからあんまり聞かせたくないんだけどなぁ…。
でも隼人の機嫌がなんか良くなったみたいだし、ちょっと手痛い代替えだと思えば。
部屋に戻ると隼人はさっさと部屋に入って部屋の隅にあったコンポをいじりだした。
しかもかなり楽しそうだ。そんなに気になっていたのだろうか。
「じゃぁ入れるよ」
「はいはい」
鞄をほっぽってベッドにダイブすると向こうの方から微かな機械音が聞こえてきた。
校長のちょっと無理した裏声。
ゆっくりとしたテンポ。
かき鳴らされる三味線。
「……演歌?」
「そう、私のだけ、演歌」
「ククッ…」
「こら、そこ、笑うんじゃありません」
周りの人に聞いてみた所全員がロックだと答えた中、何の嫌がらせか私の生徒手帳はどう聞いても拳ぐりぐりの演歌。
演歌ロックなんかじゃなくて□川きよしも真っ青の正統派演歌。
あー隼人が腹抱えて笑うの堪えてる。
「の顔を見た瞬間演歌のインスピレーションが湧いたんじゃないか?」
「私はそんな演歌っぽい顔ですかそうですか」
だとしたら軽くショックかもしれない。
校長は一体私に何を感じ取って演歌なんか歌ったんだろうか。
「まぁ校長の歌が少し変なのは仕方がない。俺も何故か歌の中ではカラコンになってたからな」
「何ソレ」
カラコン?
カラーコンタクト?
あの赤い目が?
「ちょっと隼人こっちきなさいな」
起き上がって手招きをすると隼人は少し不思議そうな顔をしたが素直にやってきてベッドの脇に膝をついて座った。
顎を持ち上げて見る。
照明が逆だから見づらいけど、目は赤い。
角度をちょっと変えて見る。変わらない。
隼人も私も黙ってるから生徒手帳がガンガン鳴っている。CD消すように言えば良かった。
あ、しまった私コンタクトなんてしてる人間マジマジと見たことないからコンタクトかどうかよくわからない。
「違うの? コンタクト」
「フー…地だよ一応」
そう言うと隼人は呆れたように私の手から離れてそそくさとコンポの前に戻った。
そーだよなぁ。小学生の頃から赤かったもんなぁアレ。あの時代からカラコンってマセスギだよなぁ。
「はやとー」
「……」
へんじがない ただの しかばねの ようだ。
違う違う。
「はやとー」
「……あぁ、ん?」
「今日のゴハンは軽いものが良いなぁ」
「わかった」
もしかしたらと思ったけど怒った様子はない。
そういえば隼人が怒るとか不機嫌て初対面の私の悪事にすら寛容だったのに珍しいよなぁ。あれ、じゃぁ今日なんて不機嫌だったんだろ。
隼人は簡単な返事だけするとまた向こうを向いてピカピカ光るコンポを見ている。
そんなにあの演歌が気に入ったんだろうか。
原作ではカラコンになってましたが(笑)一応ここでは地ってことでお願いします。
[PR]
動画