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学校から帰ると、叔父が日に焼けた額に汗を浮かべながら喫茶店から出てきて「ゴメン、今日入って」と言った。
入る、というのは手伝いにこいということで、私は時々喫茶店が忙しくなるとこうしてバイトに呼び出される。
日頃お世話になってるから断れないし別に嫌じゃないからいいけど。
分類不可3
「ただーいま」
「おかえり」
叔父さんに8時までコキ使われてお腹ももうすぐ悲鳴をあげる頃。
ベッドの上に鞄を放るとそれまでギターのチューニングをしていた隼人が徐に立ち上がってコンロに火をつけた。
もうちゃっかりウチに慣れてやんの。案外と順応性高いんだなぁ。
「うんうん、やっぱりこれからのモテる男は料理もできなくっちゃね」
自分でご飯つくらなくていいって素晴らしい。
そう思いながら制服を脱ぐと台所から隼人は少し苛立ったように私の恥じらいのなさを咎めた。
「ごめんなさーい隼人ママー」
ウチの母は料理は作ってくれてもこんなふうに小言は言わなかったけど、普通一般の母親とは今の隼人みたいなものだろうか。
そう思いながらカットソーに袖を通す。
「それなら母子の触れ合いとして今日は一緒に風呂でも入るか?」
「うわっ、お母さん呼ばわりがそんな嫌だった?」
隼人お母さんが意地悪い笑いを浮かべている。
こういう時は下手に反抗すると痛い目にあうので大人しくしといた方が良い。
隼人のことだから私引き摺って風呂場に連れて行きかねない。
長年の付き合いで行動パターンはもう理解しているつもりだ。…多分。
「まぁ俺も男だからね」
すこし小さく呟いて、けれどはっきり聞こえた言葉はそのままコンロのガスの音に溶け込んでいく。
私はどこか違和感を感じてもうお鍋に目を落としてしまった隼人を眺めていたが、口を閉じてテレビをニュースチャンネルに回した。
予想以上に美味しかった料理を食べ終える。器用なのは知ってたけど少し悔しい。
「、明日はどうするんだ?」
「明日?」
下膳して洗物を済ませると隼人はギターを大事そうにケースに仕舞っている所だった。
パチン、という音をたててケースが閉まる。
「朝にミエのとこ漫画返しに行って、……考えてない」
「無計画だな」
赤羽さんは歯に着せる衣をお持ちじゃないらしい。
クッションを抱えこんで隼人の隣に座る。
「スミマセンねー。それじゃぁ隼人さんの完璧な御計画をお聞き致しましょうか?」
「フー…不動産屋を一通り見て下見して……そうだな、午後はと久しぶりに街を歩く」
「へ?」
私が思わず声を上げると予測していました、とでもいうように隼人はちょっと笑う。何か悔しい。
「久しぶりに二人でどこか行かないか?」
オイオイ順序逆じゃない? 誘うのが後? マァなんと言うか、完璧な計画すぎて目眩がしちゃう。
別に遊びに行くのは問題ないんだけど、即答するのも癪なので私は少し悩む振りをした。
「それはデートのお誘い?」
笑いながら言ってやる。
すぐ返事を返してくると思っていたのだが、そうでもなかった。
一瞬私の態度に困惑したように赤い目を見張らせたがすぐに表情を取り戻し
「お気に召すエスコートをさせて頂きます」
とやけに格式ばって言った。
エスコート? どこの紳士気取りだこの人。ただのギタークレイジーじゃないのか。
口に出したいのは山々だけど何となく言うのを憚られて私はとりあえずクッションを隼人の頭に押し付けた。
なかなか進まないー。
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