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分類不可2
土曜日なのに。お国の学校に行ってる人はまだ寝てられるのに。
土曜日の朝はいつだって憂鬱だ。私立盤戸高校はご苦労にも土曜日まで授業をしてくれる。
朝、寝ぼけて目覚まし時計を破壊しかけた私はつい昨日来た料理係に叩き起こされた。
赤羽隼人は昨日突然とやってきて、そのまま泊まった。
高校生の男女が同室で寝たからといって何かが起こるでもなく(先ず布団も別だし)特にお互い意識することもない。
というかそんな意識は既にどこかへ飛んで行ってしまっている。
そういったことには隼人も私も無頓着だ。
朝は朝練があるからと隼人は私が起きたのを確認してさっさと登校してしまった。
アメフト部は活発にやってるようだ。よく知らないけど。
私は硬質的な施錠の音を鳴らし家を後にした。
階段を降りて外を掃除していた叔父に挨拶をする。
一階は喫茶店になっていて叔父はそこを経営しているのだ。
というか建物自体叔父のもので一介の高校生である私がバイトにおわれることなくロフト付1DKなんて贅沢できるのはこの叔父のおかげだ。
「そういや昨日から赤羽君来てるんだってね」
叔父が朗らかに言う。
待て。
私はまだ赤羽のあの字も出してないぞ。
「ああ、ヒロヨから聞いてるよ」
怪訝に思ってたのが顔に出てたのだろうか、叔父が目じりに皺を寄せて小さく笑った。
二日連続で聞いた母の名前に一瞬目眩を覚える。
なんで、自分の弟には言ってて娘に一言もないんだ母さん!
叔父がまだ何か隼人について言おうとしてたので今日は日直だからと適当な理由をつけて私はさっさとその場から逃げる。
日直じゃないけど。もし日直にであっても朝急ぐ必要なんかないけど。
隼人と私が元恋人同士というのは小学生の時のクラスメイトと私たちしか知らない。
小学校4年生になると同時に私の家は引越した。
それがたまたま隼人の家の隣だった。
引越しの挨拶に行って帰ってこない母を捜しに行くと母は隣の赤羽さんの玄関で嬉しそうに話しこんでいた。
なんて近所迷惑な、と母の袖を引くと赤羽家の奥さんが嬉しそうにお宅の息子さんと私を引き合わし、赤羽宅に母ともども拉致られた。
まぁ、ウチの母と気の合う人なんだから少々行動が突飛であってもおかしくない。
何にせよそれが隼人との初対面だった。
ソファに座らされてその時の私は学芸会並に緊張した。
何せ知らないお家で、知らない男の子と、二人にさせられて。大人二人は何かの話題に夢中でこっちなんか目もくれなかった。
隼人の毛と瞳の色は普通日本人にはないものだ。最初私は隼人を異国人だと思い込んだ(小5かそこらで訂正された気がする)。
私はぎこちなく挨拶をすると隼人も無表情のまま返してくれた。
無愛想だとか思い始めた頃、隼人は私を自室に連れて行って自慢のギターを見せてくれた。
その時、私はつい「またギターか!」と可愛げも無いことを口走ってしまった。
バンドといえばボーカルにギター。ベースとドラムは二の次でいまいち人気がでない。そういう同情めいた意識があった。
それに私は当時ザ・ドリフス○ーズの加●茶のファンだったからドラムびいきだった。
今思えば相当に失礼だったと思う。
なのに隼人はちょっと驚いた後、口角を吊り上げる微笑みで嬉しそうに一曲聞かせてくれた。
何の曲だったか全くわからなかったし隼人は一体何が嬉しかったのか見当もつかなかった。今でもわからない。
私だったら普通に怒ってたと思う。
それから、母にほぼ強制で赤羽宅に連れて行かれたり赤羽母子が家に来たりと頻繁に行き来していた。
会う回数も多ければ話をする回数も多いわけで。
隼人はそんなに口数が多いわけではないし(というか寧ろギターで喋りなさる)私もクラスの女子程お喋りではなかったけれど、
私のひねくれた性格と隼人の頭の回転の良さが相まって顔を突き合せれば皮肉大会になっていた。
だから、ちょっと同年代の子が聞いたら何の意味なのかわからない単語を連発していた。その時は楽しかった。
クラスの女子に対して言おうものなら村八分な言葉でさえ隼人は負けずと返してくれた。
馬が合ったんだと思う。話題の種類とか言い回しとか。
勿論学校も一緒で4年生の時はクラスが別だったけど5年生になってクラスが一緒になった。
クラスが同じだと話しかけやすい。
休み時間ごとに話をしていた私と隼人はすぐに好奇心旺盛なクラスの子から関係を疑われた。
私は何かと呼び出しを食らい、何度も何度も「付き合ってるの?」なんてセリフを聞かされた。
今思えば隼人は天然タラシ気質(ってかフェミニスト?)で整った顔をしていたから女子からは人気があったんだろう。
だから何かと隼人の側に居た私の立ち位置をはっきりしておきたかったのだろうし、排除したかったというのもあっただろう。
当時はそれもわからなくて、ただからかわれているのだと思い新年度5回目の呼び出しを受けた私はその足で隼人の家に向った。
何故隼人に対して怒る必要があったのかわからない。一様に呼び出し被害のない隼人が恨めしかったのかもしれない。
私は何度も呼び出されて鬱陶しい、どうにかしろと無茶を喚きバカバカと無意味な暴言を吐いた。
また隼人はそこでよく怒り出さなかったと思う。
彼は少し考える素振りを見せた後「じゃぁ付き合おうか」とさらっと言ってのけた。
最初は意味がわからなくて最高に呆けた顔をしていたと思う。
隼人は私の表情を読み取って「そういった手合いは肯定するまで聞いてくるよ」と付け加えた。
この時普通の女の子ならどういう反応を見せるのだろうか。顔を赤らめるとか半泣きになるとか?
小さい頃から打算もとい、現実的で石橋を叩いてジェット機で飛び越していく人間だった私は小さな頭を急速に回転させた。
算出された結果は、ただ呆けた顔のまま頷くことだった。可愛い反応なんてこれっぽちもない。
当時から惚れた腫れたの恋愛情事に一片の関心を抱かなかった私は好きな俳優はいても当然他に好きな人なんてものもいなかった。
契約みたいなものだ。
隼人と私のメリット・デメリットの妥協と折り合いがあって成立する恋人。隼人のメリット?…私に愚痴られずに済むことか。
なんと殺伐としたカップルのでき方だったろうか。
それから6回目の呼び出しで肯定だけして帰ると瞬く間に噂となって広がった。
最初の内は興味津々と聞いてくる子もいたがやがてそれも途絶えて、赤羽とは付き合っているという話だけが皆の中に定着した。
実際は小学生の恋人ごっこで出来方もアレなものだったから、色気なんて全くなかったんだけど。
隼人との関係も特に崩れなかった。親しいお隣さん、仲の良い友人、誰よりも一緒にいることが多い親友。そんなところだった。
中学生になると同時に私の家がまた引越しすると隼人とは疎遠になった。
何度か親に引き摺られて家に遊びに行ったり、向こうが来たりもしたけど小学生の時を考えれば断然少ない。
恋人の契約も意味を成さなくなり自然と消滅した。
盤戸高校を受験していざ入学すると私は親元を離れて一人暮らしを始めた。
両親は叔父さんのいるアパートなら、と条件付きではあったがあっさり承諾をくれた。
高校に入って、桜が舞うグラウンドをフと見遣ると見知ったような特徴的な毛の色が見えた。
偶然だと、ビックリした。隼人は同じ学校でアメフトをしているところだった。
慌てて会いに行くと隼人は驚く様子もなく挨拶してくれた。
何だお前は全くの感慨もないのかとつい毒を吐くと隼人は幾分困ったような顔をして
「が盤戸高校にいるのは母から聞いていたから知っている。どこかで会っても全然不思議じゃないだろ」
そんなことを言った。
待って、私は何も聞いてない。
ウチの母と赤羽母の交流がまだあったのは知ってるけど隼人の話なんて一切聞いていなかった。
考えれば昔から母は要点要点を私に伝えない。故意かもしれない。
それからは、隼人とは顔見知り程度の付き合いだった。
廊下で会えば挨拶するし教科書を忘れれば借りに行く。何かで一緒になったら世間話や昔話で盛り上がる。
特別親しくもなければ仲が悪いワケでもない。
そんな男が、突然訪ねてきた。
すこしだけ懐かしい匂いを感じ取りながら、あの時私は隼人を家にあげてお茶を出したのだった。
「ー、シャーペンサンキューなー」
名前を呼ばれて、現実に引き戻される。
顔を上げると前の席の男の子が自慢の髪の毛を整えながらこちらを向いていた。
「私コータローにシャーペン貸した覚えないんだけど」
「ちゃんと断りいれたぜ。心の中だったけど」
「オイコラ」
コータローの手の中にあるやつはまさしく私のシャーペン。しかも気に入ってる奴。
ないなぁないなぁとか思ってたらお前か!
悪ぃ、と幼い笑顔を見せながらコータローは私の机にあった化学のノートを取った。
宿題も見せろってか。させません。
「あ! コータロー鞄、鞄!」
「え?」
扱いやすい。隼人に比べると何倍も行動が単純だから。
私はコータローが後を向いた隙にシャーペンとノートを引っ手繰って机の中に戻した。
「ちょ、ヒデー!」
「酷くないでーす。私はコータローがズルをしないよう善意でしてるだけでーす」
私生活が少々変わろうが、学校生活には何の支障もない。
隼人と一緒に住むことがバレればまた小学校の時のように、噂―しかも悪化版の―が流れて呼び出しのオンパレードになるだろう。
要は、バレなきゃいいんだなバレなきゃ。
回想長すぎヨー
ヒロインはアメフト部の存在は知っているけれどコータローがアメフト部だと知りません。
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