TextAD
無料
-
出会い
-
花
-
キャッシング
元恋人、幼馴染、知人、友人、親友、腐れ縁。
そんな言葉が当て嵌まる、けど厳密ではない、そんな男が今、目の前に居る。
「ヒロヨさんから連絡行ってないのか?」
なんでそこで母の名前が出てくるんだ。
分類不可1
「お母さんッ!」
「あらー元気ー? 隼人君もうそっち行ったー?」
受話器に向けて怒鳴るとすこし高い母の声が返ってきた。すこしテンポの遅い母の言葉に妙に苛々する。
「来たけど、今後にいるけど!」
「隼人君こんばんはー」
「今電話に出てるのはアンタの娘だ!」
一人で血圧を上げて受話器相手に叫んでいる光景は滑稽だろう。
ニコニコしながらおじぎしていそうな母に電話線を通して噛み付いてやりたい。
「隼人君今住むとこ無いらしいから泊めてあげなさいね」
「そうなの? っていうか勝手に決めるな!」
「あら、ダメだった?」
「ダメです。まず一言許可をとれ」
「あ、ドラマ始まる」
「ドラマより娘の生活を心配して!」
「詳しくは隼人君から聞いてねー」
電話線の向こうで電話機が擦れる音がして、ツーツーという無機質な電波が流れてくる。
一方的に切られた。こうなっては何度掛け直しても母が出てこないことはわかっている。
既に沸点を越えてしまっている私は受話器を床に叩きつけようかと考えたが後々を考えて、子機をベッドの上に叩き込んだ。
案外まだ冷静だ。
「今母さんから聞きました。詳しくはアンタから聞けってさ」
ベッドの上の電話を叩き壊したい衝動を抑えて振り返ると赤目の男は机についてお茶をのんびり飲んでいた。
こっちが騒ぎ立ててたのに無視かよ。いやお茶を出したの私だけどさ。
「つまり何も聞いていなかったと」
「つまり一から十までアンタが説明しなきゃならないんだと」
正面に座ると隼人はお得意のため息をついた。
「なるほど」
話は簡単なものだった。
親御さんが大阪に行くが隼人も付いて行くことにした。
しかし土壇場になって東京に残ることにした隼人は新しく住まいを決める暇もなくて途方に暮れかけていたところをどこからか聞きつけたウチのお節介な母が勝手に私の家を使えと許可したと。
まぁ多分隼人のおばさんが母につい言っちゃったんだろうな。毎週電話してるらしいし。
「…娘の人権無視しすぎだろ……」
せめて、せめて一言私に何か言えよ。
「まぁいきなりだしも一応女だろうし抵抗あるだろう」
「一応女だろうって何だコラ」
じっとりと睨むと肩を竦ませて受け流された。オイ。
「いきなり来て悪かった。他をあたる」
そう言うと隼人は立ち上がりたてかけてあったギターを担いだ。
「隼人」
さっさと出て行こうとする隼人の背中を見る。
もしかしたらウチになんて泊まりたくもないのに母さんが無茶言うから仕方なく来たのだけで本心はさっさとどこかへ行きたいのかもしれない。
けれど立ち上がる瞬間、赤い目が一瞬だけ揺れるのを私は見た。
何かを諦めた時にああした表情をとる癖は昔から変わらない。
そして私も昔からあの表情には弱い。
「私は私の知らない所でコトが勝手に決まっていたことに怒っています。でも昔馴染みが困っている姿を見てまた困っています」
「……」
返事はなかった。彼は振り返りもしなかった。ただ私の次の言葉を待っている。
「料理の上手いルームメイトなら募集中ですよ」
「フ――」
ため息なのに、嬉しそうだ。
彼はスタスタと元の位置に戻るとギターを丁寧に置き私の顔を見てニヤリと笑う。
「まぁ、よりかは上手いかな」
「口の減らないヤツめ」
もしかしたら、私が隼人のああいった様子に弱いのを知っていて彼はわざとあんな風に振舞ったのかもしれない。
だとしたらオスカーものだ。
「ちょっとの間ヨロシク、元彼女さん」
「あら、こちらこそ。元クラスメートさん」
彼が皮肉っぽく笑って、私もそれにつられた。
同棲ネタスタート
[PR]
動画