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「コムイさーん! おみやげー!」
「えー僕ドイツには仕事で行ったんですけどー」
「バームクーヘンー!」
予兆
ドイツから戻って研究室に入ると見知った顔が以前と変わりない態度でお土産をせがんできた。
出張先での重い話にそぐわない彼女に笑みが綻び出る。
彼女はまだこの緊急事態について何も知らない。
自分が科学班以下教団員全てに緘口令を敷いたからだ。
まだ、知らせる時じゃない。
「ご当地バームクーヘンはやっぱりおいしかったよ」
「今度砂糖と塩を間違えたバームクーヘンをプレゼントしますね」
「リーバー君、全部君に横流ししてあげるからね」
「いらねぇっス」
こちらを見もしないで素っ気無く答えた班長は隣に立つ女性の腕にレコード盤を装着している。
黒い団服の女性に視線を移すと彼女は居心地悪そうに視線を泳がせた。
「君がミランダ・ロットーかな?」
「ははははは、はい、そうです」
近づくとどもりながらミランダが声も小さく答える。最後の方なんて「す」の音が吐息に混じってわからなかった。
「僕が科学室長兼司令長官のコムイ・リーだよ。つまり君らの上司になるワケね」
「嘘! 本当に上官だったの!?」
ミランダが返事する前にちゃんが驚きの声をあげた。
口を開けて素で吃驚してる。
「ちゃん、何年ここにいるのかなー?」
彼女の小さい頭をぐしゃぐしゃと撫で回すと下から非難の声があがった。
その間にリーバー君は作業が終わったらしく何かミランダに指示を与えていた。
「ところで、コムイさん質問があるんですよ」
コムイの手から逃れて、が小声で言う。
その神妙な声に一抹の不安が過ぎる。
コムイはニッコリ笑うと少し惚けて返す。
「んん? お兄さん何でも答えちゃうよ」
不審人物を見る視線がコムイに向けられる。
逆効果だったようだ。
「……女性用の団服ってスカートだけだなんてジェンダーたっぷりなことって言い張ってましたよね」
「え? う、うん…そんなこと言ったっけなぁ」
拍子抜け、肩透かし。その二つをいっぺんに喰らった気になった。
予想とはまったく違う問いにコムイは少しだけ狼狽の色を見せた。
気付かずは幼い膨れっ面でコムイに詰め寄る。
「言いましたー! だから私今までこのやたら短いスカートでも我慢してきたのに!」
そういってが自分の黒いスカートを掴む。
「私もミランダみたいなズボンにして下さい!」
「あーはいはい。その内ねー」
「コムイさんの"そのうち"は当てにならない」
「んー」
このまま受け流すのも無理があるか。
コムイは観念したように目を伏せるとが横で隣人の機微を窺っていた。
「…じゃぁ、君のイノセンスを作り変えさせてくれたら新団服。ってのでどうだろう?」
一瞬の表情が強張る。目を開き、そして怒ったように眉間に皺を寄せた。
「ハハ、冗談だから怒らない。医務室でサイズ測ってもらっておいで。後で希望聞くから」
「え、あ……」
の頭をポンと撫でるとは体を震わせコムイを窺い見た。
「はい」
随分と大人しくなった声。
は目線を落とし、そのままコムイの横をすり抜けた。
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