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コムイは乾いた笑いでその場を適当に濁しながらコートに袖を通した。
黒髪の少女はそれを苦々しげに睨んでいる。
出張
「私もー私も行くー!」
「あーはいはい。ちゃんは大人しくお留守番だよー」
「ヤー!」
腕にしがみ付いて騒ぐの姿は知らない人が見れば去り行く恋人を引き止めるのそれにも見える。
問題はそんな切羽つまったものではなく、ただ出張に連れて行けとが駄々をこねているだけなのだ。
先日妹が任務に行った"巻き戻しの街"が元に戻ったらしく、負傷したエクソシスト二人の治療を求められてコムイは早速と準備を終えた。
いざ出発、と思ってカバンをとるとがむくれっ面をして科学室に乱入した。
それから、腕を掴まれて身動きができないでいる。
「私を連れて行くと漏れなく護衛役になりますよ!」
「ラビとブックマンと途中合流するから大丈夫だよ」
「道中美味しい料理がたらふく食べられます!」
「ドイツのカントリー料理って美味しいらしいね」
妥協という言葉を完全に無視した二人に部屋のド真ん中で立ち往生されると正直邪魔である。
それでも文句の言えない(関わりあいたくない)優秀な科学班の班員達は二人を避けながら科学室を資料片手に駆け回っている。
「神田君にも留守番言われてるでしょ。僕だって遊びに行くワケじゃないんだから出張だよ出張」
「私も軍人だもん、留守番なんかより戦ってなんぼでしょ」
「軍人は上からの命令なしに動いたら軍法会議だよ」
「だからここでコムイさんが承認すれば怒られるのはコムイさんだけ!」
「んー、僕も怒られるのは嫌かなー」
のらりくらりと回答しても一歩として動けない。
コムイはため息をつくと少女を見下ろした。
「上官として命令する。エクソシスト・は明日到着の新入りの世話係にあたること」
「新入り?」
顔を上げてが目を円くする。
「ミランダ・ロットーってドイツ人。詳細はー…その辺に資料あるから見ておきなさい」
勿論無断外出は一切禁止。そう付け加えるとが不満の声をあげた。
「今度君のイノセンスに新しく機銃つけてあげるから。リーバー君が」
「俺専門外ー!」
机から顔を上げて突然増やされた仕事にリーバーが叫ぶ。
「むー…機銃か、機銃……」
リーバーの反論も無視しての中で天秤が揺れる。
実質的なレベルアップとゴリ押せば可能かもしれない外出許可。
彼女の中で重かったのは
「よいしょっと」
そう言ってコムイが旅行カバンを一つ手にとって地下水路のボートに飛び乗る。
恨みがましい視線を受けてコムイが顔を上げると黒髪の少女が拗ねた眼をしていた。
「機銃は君でも扱いやすい単装にするから、拗ねないでよ」
「拗ねてません。コムイさんズルイ」
「その場に応じて本音は隠そうね」
苦笑してコムイは船頭に合図を送る。
ゆっくり舟が水流に乗って動き始めた。
「いってきます」
敬礼する少女に手を振る。
轟々と不穏な低周波が水流と風に混じって地下に響いていた。
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