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「……」
飯を食いに来たらバカがまた食堂の注文口を占拠していた。
禁止令
「そうなんですよ、コムイさんがねー」
注文口に肘をついて嬉しそうに料理長と話をしている。
もう夕飯時だというのに、邪魔だ。
「アラ、神田君。注文?」
嫌な顔せずにの話を聞いていたジェリーは俺に気付くと妙にしなを作った口調で話しかけてきた。
「…そば」
の隣に立って注文すると横でがじっとジェリーを観察していた。
「それじゃ、ちょっと待っててねん」
「ハーイ」
ジェリーが厨房に引っ込んだがは尚も遠くの料理長から目を離さない。
しかも時々ため息をついてニヤけている。気持ち悪ぃ。
「ねー神田。ジェリーさんて強いのかな、強そうだよね、なんで料理長なんだろ、いや料理おいしいけど。我が英国海軍に入ってくれないかな。彼なら即佐官の位でもやっていけるのに」
コイツはここの料理人を消したいらしい。
「知るか。それよりお前最近飯時んなったらいっつもここに居るな。注文の邪魔だ」
「失礼な! ご飯時以外にも侍っていますよ!」
バカがむっと顔を上げる。
最近見かけねぇと思ったら四六時中いるのかよ。
「…尚悪い。話し相手なら他にもいんだろ」
「ヤですージェリーさんがいいんですー」
視線を戻してが楽しそうにまた厨房を眺める。
「なら飯時ぐらいは退け」
「えぇー……あぁ、私が厨房に入ったらいいんじゃない! 師匠仕込みの料理の腕があるんだし! そしたら毎日神田の料理をソバ以外の」
「テメェ医療室から出れねぇようにしてやろうか」
「……ジャーパニーズハオカタイデースネー」
独特の日本語でが茶化したように言う。
多分日本語はカタコトにしか使えないのだろが何となくムカつく。
「オソバお待ちどーん!」
真剣に斬ってやろうか考えていると厨房からにゅっとソバの置かれた盆が出てきた。
ジェリーがひょっこり顔を出して俺とを交互に見てニッコリ笑う。
「アンタ達仲いーわねー」
「それはない」
「そうですよ、神田はバイオレンスですから仲良くなんてできませんよ」
即答で返すとも慌てて否定する。
低い位置にある頭を軽く殴るとが非難の声を上げた。
「ジェリーさーん、神田がいじめてきますー」
「ダメよー女の子は大切にしなきゃー」
ねー、と低い声と高い声が重なる。
俺は盆を掴んでさっさとテーブルに向った。これ以上付き合ってたら麺がのびる。
さして混み合っているワケではないが一人で机一つ占領している奴がいるので狭く感じる。
食料に埋もれていた奴は顔を上げると俺を見て口の中にあったものをゴクンと飲んだ。
「神田、ちょっと一緒しませ」
「断る」
モヤシがむっとした表情をしたがすぐ隣の席にまではみ出していた団子をのけはじめた。
ガチャガチャと皿が鳴ってモヤシは団子を除けるだけなのに四苦八苦している。食った方が早い。
「……ちょっと、真剣な話なんです」
神妙な顔をしてモヤシが漸く空いた隣を指す。
「アレどう思います?」
仕方なしに隣でソバを食ってやっていると声を潜めてモヤシが言った。
アレ、と指差された先にはバカ女と料理長がまだ談笑していた。
「邪魔だな」
食事の邪魔になるのが真剣な話だとでも言うのだろうか。
それならこの場でパンチの一発いれても問題はないだろう。
「そうですけどね、問題はが僕と話している最中にジェリーさんに惚れてしまったことです」
「……は?」
「いや、ですから。僕と話してる最中に、恋の女神ですか? がに降りてきたんですよ」
恋の女神が降りてきたんなら普通は目の前にいる人物に恋するだろう。
どこまで捻くれてる女神が降りてきたんだ。
「ですから、どーにかを食堂から離そうとしてるんですけど全然動いてくれなくて」
モヤシがため息をつく。
「別に誰が誰に惚れようが勝手だろ」
「僕はがジェリーさんに相手にされず悲しんでいる姿なんて見たくないんですよ」
ほら、僕っての良い友達ですから。モヤシがパンを千切りながら言った。
どの口が叩いているのだろうか。
「ジェリーさんはミステリアスなのがカッコいいとか言ってるんですけど……仮面でもつければこっち来るでしょうか?」
知るか。
とりあえず俺には真剣に関わりのない話らしいのでモヤシの頭を一発殴っておいた。
モヤシが頭を抑えながら何か言わんとしている。
無視して箸を空になった椀に揃えて立ち上がる。
盆を持って返却口に行こうとするとモヤシが後ろでまだブツブツ言っていた。ウゼェ。
「神田、食べ終わったの?」
「君も蕎麦ばっかりで飽きないねー」
注文口にはまだが料理長と一緒に居た。いつの間にかコムイまで増えている。
どうせ仕事サボりで来たのだろう。その内リーバーが血眼になってやってくる。
「あ、そうそうちゃん、明日から食事に来る以外食堂出入り禁止ね」
「…ぅえぇー!?」
ついでのことのようにコムイがサラリと言う。一拍おいて響いたの声が煩い。
「なんでなんで、何でですか!? 任務くれないからせめてもとジェリーさんに会いにきてるのにー!」
がコムイの服を掴みながらギャンギャンと喚く。
コムイは困ったように苦笑しての手を緩慢な動きで外す。
「だってぇー、なんか注文しづらいとかぁー後片付けしづらいとかー苦情きてるしー」
宥めてるのか挑発しているのかよくわからない口調だ。
「だってだってー……か、神田ー!」
泣きそうに俺の顔を見上げてくる。
このままだと本気で泣きつかれかねない。目を逸らした。
「まぁ、人の邪魔にならない時を見計らってオヤツに来れば良いじゃない、ね?」
「えー」
ジェリーがの頭を撫でて宥めると声を小さくしてそれでも不服そうにうつむいた。
コムイも撫でようとしたがに威嚇されて手を引いた。どこの動物だ。
モヤシが仮面を被るまでもなくは勝手に食堂からは離れたようだ。
しかしまた日中からが周りをウロウロするのかと思うとひどくわずらわしい気分になった。
でも実は嬉しいとかそんなオチ。
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