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「ジェリーさん! 神田のソバ私が作りますからー!」
厨房の奥から聞きなれた声が聞こえてきた。
蕎麦天ぷら
が給食当番のような白衣のまま厨房から出てきて持っていた盆を机に置いて隣に座る。
「カンダのための創作料理EX!」
はにこにこと嬉しそうな声をあげて天ぷららしきものをフォークで突き刺しこちらに向けてくる。
天ぷらには箸だろ。
「ほら、ほら。神田のために蕎麦を揚げてみましたよ。あーんしなさい」
フォークの先を見る。黄色い衣に包まれた蕎麦が俺の眼前にある。
俺が注文したのは普通の蕎麦だ。
「好き嫌いするなんてお母さん許しませんことよ。ってゆーか神田好きでしょ? 蕎麦も天ぷらも」
無言で見ているとは痺れを切らしたように天ぷらを俺の口に無理やり突っ込もうとしてきた。
というか蕎麦天ぷらを強要してくる母親なんて聞いたことない。
俺が好きな蕎麦と天ぷらは別の物であって誰も一緒くたにしろとは言っていない。
普通のレシピのある料理なら普通に作れるのに何でこんな無駄なことをするのか。
寧ろ嫌がらせに近い。
「こんにちは」
「あ、アレン聞いてよ!」
視線を上げると大量の食い物を抱えたモヤシが向かいのイスをガタガタ言わせてひいていた。
「どうしました? 神田にでも迫られました?」
「誰がンな色気のねぇ女に……」
「え! 私神田に借金なんてしてないから!」
が一人論点のずれたことで騒ぐ。これだから余計色気もねぇ。
「別に借金返済を迫られたかとか言ってないんですけど…でも神田に弱味を握られるようなことはしてはいけませんよ」
モヤシがの手をとってどこかの牧師のように諭し始めた。
ヤのつく自由業でもないのに滅茶苦茶言われている。
「うぜぇ。消えろよ」
「僕はカンダにではなくに用があるんです」
モヤシが含みのある笑顔をこちらに向けて言った。
「……」
蕎麦もねぇしモヤシもいるし。帰るか。
そう思って腰を浮かせるとがっちりが俺の腕を掴んだ。
「お昼ご飯はきちんと食べないと途中お腹空きますよコラ」
なら普通の蕎麦を持ってこい。
「で、はまた何をしてカンダを困らせていたんですか?」
「何か私のやる事為す事全部神田を困らせてるみたいじゃない」
は口を尖らせるとモヤシが笑いながらそれでも謝ろうとはしなかった。
今回に限ってはモヤシが正しい。
「あ、ナンだったらアレンも食べる?」
と、が蕎麦の天ぷらをモヤシに見せる。
「いえ、僕なんか和食って苦手なんですよねぇ」
断りながらモヤシがみたらし団子を頬張り始める。
団子は思いっきり和食だ。
女の頼みなら何でもホイホイ承諾するかと思っていたが意外にも断る時もあるようだ。
「それなら仕方が無いね。神田!」
の矛先がこちらに向く。
「あーんしてあげるから食べなさいよ」
「要らん」
「ハンモックあげるよ?」
「要らん」
「龍彦乗船マニュアル!」
「要らん」
「ええい、世界のわんちゃんねこちゃん大全集でどうだ!」
「要らんわ!」
さっきから必要性のないものばかり並び立てて如何にかこうにか天ぷらを食わそうとしてくる。
普通もっと相手が欲しがりそうなもの選ぶだろ。
「仕方がありませんね。、僕がそれを食べます。食べ物は粗末にできませんし」
モヤシがさっとの前から蕎麦の天ぷらを取り上げて口に入れ始めた。
「でも世界のわんちゃんねこちゃん大全集は見せてくださいね」
そっちが目的か。
の創作料理EXがどんどんモヤシの胃に蓄えられていく。
「神田って、には甘いですよね」
が盆を返しにいっている間モヤシが呟いた。
視線を流す。
が料理長に頭を撫でられていた。
その後結局俺は昼飯を食い損ねた。モヤシの言うとおり甘いのかもしれない。
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