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新入り
上を見上げると暗雲と垂直な崖。
ミランダはバッグを片手にポカンと口を開けて立っていた。
助けられて街を離れ新しい人生を踏み出そうと決意したのは数日前。
エクソシストの総本部として教えられた住所は間違いなくこの崖の上だ。
「こ、これ登る…の?」
無理、ムリムリムリ。
ミランダは既に涙目で先の見えない崖を見あげている。
何かしら、やっぱり私には不幸が付きまとうのかしら。
時計を抱えて上までなんて先ず無理じゃない、普通に登るのも難しいでしょ。
それともこれぐらい登れないとエクソシストなんてやってけないってことかしら? 私もう入る以前でダメじゃない。
泣きそうだった。やっと見つけた自分の居場所を無言で否定されているようで。
「どうしよう…」
首が痛くなって俯く。
更に雷鳴の予兆ような重低音が空から聞こえてきた。このまま雨にうたれて雷にも鳴られるのだろうか。
「どうしよう」
呟いたところで解決策は降ってこない。
折角見つけた新しい人生なんだから、ここで終わりたくなんかない。
ミランダは大きく息を吸うと大きな時計をチラリと横目で見て、どうにかあの崖上まで持ち上げる方法を考えることにした。
「てこの原理…無理ね。縄……なんてもってないし」
轟々と音が更に五月蝿くなってきた。雷は近い。
「紐でも……アラ?」
縄を切望していたら、ピラリと空から垂らされた。
神様の思し召しかしら?
そう思って空を仰ぐと、空がなかった。
真っ黒い何かが上空を占領してしまっている。
ミランダは思わず悲鳴を上げてその場にヘタレ込んだ。
『ミス・ロットー?』
「ひぃぃぃぃ!!」
羽根の生えた黒い物体がミランダの元へ降りてきた。
目玉のようなものがミランダを睨んでいる。
『ロットー? ミス・ロットー? 大丈夫ですか?』
目玉からの女声にミランダが肝を冷やす。
ずりずりと這うように、なるべく飛行物から距離をとった。
「え、な、な、なな、何?」
『初めまして。エクソシストのです。迎えに来ました』
「む、むむむか、え?」
『とりあえずお手数ですがそこの紐に荷物をくくりつけてミス・ロットーは梯子で上ってきて下さい』
見上げると低い機械音を轟かせて一隻の船が上空で待機していた。
「つか、れた」
途中強風に煽られて何度手を離しかけたか。
肩で息をしながらなんとか甲板にたどり着いたミランダはヒュウヒュウ鳴る肺をおさえつつその場にへたれこんだ。
「こんにちはミス・ロットー」
すぐ前でカツリと靴が鳴った。
キツイ風にすぐ消されてしまったが少し高い、先ほど目玉を通して聞いた女の声である。
ミランダは疲労のせいで顔を上げることができない。ただ自分の体力の無さを呪いながら相手の次の言葉を待った。
「お迎えに上がりましたエクソシストの・です」
彼女は落ち着いた声でミランダに挨拶すると踵を返して何かを叫んだ。
ミランダはそれがひとつも聞き取れず何とか首だけを起こす。
ブーツ、スカート、服、髪、全てが真っ黒の、小柄な女性だ。
髪の毛が強風に煽られバタバタと暴れている。
「これから宜しくお願いしますね、ミス・ロットー」
くるりと振り返ってが笑みを浮かべながらミランダに手を差し伸べる。
可愛い。
年齢も素性も全くわからなかったが何となくミランダはこの笑顔は信じられる、と確信し差し出された手に自分の手を重ねた。
船が上昇を始める。
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