TextAD
無料
-
出会い
-
花
-
キャッシング
エンジンが低く唸る。
微かに揺れる床。
仰向けに寝転がると一杯の空が浮かんでいた。
あれからもう幾日も経った。
ヘブラスカに見てもらったワケではないが何故だろう、龍彦の鼓動が以前よりも強く感じる。
攻撃力も防御力もアップしたか全く判じ得ない。比べる相手が居ない。
それでも。
それでも感じられるのは龍彦の強い衝動。イノセンスである龍彦に感情など存在しないのに、伝わる。
AKUMAを欲する破壊の衝動が以前よりも強く、脳へ直接伝わってくる。
戦争狂時代
手を蒼い空にかざす。指先を動かすと同時に主砲が鈍く、それでも以前よりしっかりと動き空を遮断した。
「さん」
起き上がるとゴズさんがバツの悪そうな顔で立っていた。
「今日でもう3日目ですよ」
「うん」
ゆっくり、ゆっくりと龍彦が森の中に沈んでいく。
最近は出来る限り龍彦の上でいる。
数日を挟んで発動、一日休んでまた発動をする。
それに比例して順調に騒音の苦情も出ているらしい。
一際地に響く音がして体が上下に揺れた。
発動停止。
船中に張っていた気が一気に帰ってくる。
汗が噴き出る、頭がガンガン打ちつけられる。
名残惜しそうにエンジンはゆっくり音を縮めていき、やがて止まった。
「う」
重力がこんなのも負荷になるだなんて思ったことはなかった。
起こしていた上半身は地球の引力に抗うことなく崩れ、頭を鋼鉄の床に打つ。
「大丈夫ですか!」
「……痛いです」
「本部へお連れします」
一瞬躊躇いを見せたゴズさんの手が伸びてくる。そのまま広い背中に乗せられて、視界は暗転した。
目を開けると仄かに朱色に染まった天井が見えた。
また半日は悠に寝てしまったのだろう。
起き上がるのも気だるくて寝返りをうつとベッド脇の丸イスに長身の男性が見えた。
「アラー、ちゃん起きた?」
「ジェ…!?」
起き上がる。一瞬霞んだ視界が現実味を帯びる。
シャリシャリと小気味よい音をさせながらジェリーさんが鮮やかな手つきでリンゴを剥いていた。
「ジェリーさん?」
「最近はみーんな出払っちゃってるでしょー? 食堂も閑古鳥鳴いちゃってて暇なの」
ニッコリ微笑んでジェリーさんは綺麗に剥かれたリンゴを切る。
シーツをギュっと握った。
「あの、わ」
「戦争なんて早く終わっちゃえばいいのに。皆で楽しくティータイムなんてイイと思わない?」
ネェ、とジェリーさんがリンゴを皿へ盛っていく。
私は慌ててただ曖昧に笑って頷いた。
本当は私も外へ戦いに行きたいから。
この戦争が終わってしまうなんて考えたこともなかったから。
サングラスの向こうは見えない。
「その時はちゃんとも二人でゆっくりできたらいいわね」
お皿を手渡される。
受け取って、林檎を一つ齧ると甘酸っぱい酸味が口内に広がった。
「ジェリーさん」
一口目を飲み込む。白いシーツがクシャクシャになっているのが見えた。
「ジェリーさん、大好き!」
「あら、アタシもよ」
返された言葉は非常に軽くて。
言った言葉も大切な意味を隠した言葉だった。
名前のない感情が風船のように膨らんで、胸のうちを占領する。
笑っているはずなのに顔の筋肉がおかしくて、ぐっと歯をくいしばった。
「大丈夫」
頭に何かが触る。
ジェリーさんが椅子から乗り出して頭を撫でていた。
「大丈夫よ。ミンナも、アナタも」
優しい声に泣きたくなった。
お父様、
お父様、お父様、
家から離れて好きになった人はお父様に似た優しい手の人でした。
結局のところ私は未だにファザコンのようです。
お別れするのは辛いけど、
これが今生の別れになるかもしれないけど、
私はジェームズ・ローランドの娘だから、
戦場に帰ります。
大好きでした。ジェリーさん。
ジェリーさんが医療室いるのはコムイさんが気を利かせて見舞いを勧めたから。
多分コレは恋というよりも父親に対する羨望をジェリーさんに投影したとかそんな感じかと。
でも大好きな人。
本当はジェリーさんだけで数話書こうとしてたんですがヤメましたw
[PR]
動画