TextAD
無料
-
出会い
-
花
-
キャッシング
「目瞑れ」
「ん」
すぐ目の前にいる神田は真剣な顔をしている。
指示通りに目を閉じて心持顎を上げると両頬に体温を感じた。多分手。
「あ」
「あ?」
ノックもなしにドアの開く音がして知らない人の声と神田の怪訝そうな声がした。
「うわ! スマン!」
今度は短い叫び声と共に今度は勢いよくドアが閉まった。
神田が立ち上がる気配がしたので目を開けてみると憮然とした表情で神田がドアのところに立っていた。
リンキオウヘン
「誰か来たの?」
「気のせいだ」
切られた前髪がパラパラと上から落ちる。鼻にあたって妙にくすぐったい。
ほぼ会話そっちのけで神田は黙々とハサミを動かす。
「今部屋開けてまた出てった人誰?」
「動くなバカ。……妖精かなんかだろ」
「スマンて言いながらドア閉める妖精なんて初めて聞くよ」
「新種なんだろ。下向け」
神田は髪の毛に集中してるからあまり会話を長引かせたくないらしい。
適当なことを言ってツッコミ所は満載であるが私は言葉を呑み込んだ。
っていうかここでツッコんだら神田たぶんキレる。
ブチ切れしてハサミ折るとかどうあっても回避したい、返しに行くの私だから。
「このベッドは私が占領したー」
「帰って寝ろ」
白いシーツに飛び込むと反動で鼻打った。負けない。
横で神田が下に敷いていたビニールをゴミ箱に突っ込んでいる。
肩で揃えられた髪を触ると頭が軽くなったことを実感する。
「神田って意外と器用だったんだねー」
「殴んぞ」
「感謝してます神田大明神」
殴ってみろ!なんて挑戦的なこと言うとマジで殴られそうだからヤメた。
多分マウントポジションとられて原形留めないぐらいに殴られるね!
「感謝ついでに神田の髪私がセットしてあげようか? 縦ロールとか!」
「誰がテメェなんかに触らせるか」
…冷たい。
「もしもーし」
不平を言おうかと思って上半身だけ起こすとドアから控えめなノックが聞こえてきた。
神田も丁度後片付けを済ませたところらしく低い声で一言入れ、と言った。
「ひ、久しぶり…」
オバケ屋敷にでもはいるように恐る恐るドアが開き、なんかバツが悪そうに視線逸らしたまんまのオレンジ髪の男の子の姿が見えた。
「お前さっきもドア開けたろ」
「いや、どっかの妖精の仕業じゃネ?」
神田に睨まれて少し怯んだようだった。挙動不審に手をブンブン振ってる。
黒い服に胸の十字架がチカチカ光った。同業者の証だ。
私と目が合うとドアをパタンと閉めて来訪者は愛想良く笑った。
「俺ブックマンの後継者でラビっつうの、ヨロシクさ」
眼帯で隠されていない方の垂れた目が人懐こさを強調してる。
ブックマン? 何の役職だろう。
「初めまして、・です。ミスター」
「あー、タメ口でいいさ。名前もラビとかJrとか適当でいいし。歳同じぐらいだろ?」
見た目で歳とかわからないよ!
思わず神田の方を見ると「お前より一コ年上」とだけ言ってくれた。
「じゃぁ私も適当に呼んでいいよ、ヨロシク」
差し出された手を握り返すとラビは嬉しそうにニッコリ笑った。
神田は無言のまま椅子に座ってこっちの様子見てる。
「ユウ、コムイに呼ばれてっからお前の彼女借りてって良い?」
「勝手に持って行…あぁ?」
ラビがぐるっと首を回すと神田はどうでも良さそうな顔をしていたが急に眉間に皺が寄って機嫌悪くなる。
「このバカ女がいつ俺の彼女になった?」
「バカ女違いますー」
「違うさ? さっきコム……」
ラビが神田の覇気に気押されて言葉を切らす。
既に抜刀してるよ神田。殺る気満々だ。
「神田ってバイオレンス志向だよねー」
「五月蝿ぇ。先行く」
ガタリと音をたてて立ち上がり、乱暴にドアを開けて神田がスタスタと部屋を出て行く。
「あー……じゃー、ちょっと科学室までご同行願うさ」
一瞬呆気にとられたようだったけどラビが顔をヒクつかせて無理矢理笑った。
「はいさー」
両手を挙げて行く気満々ですよと意思表示してベッドから下りる。
ちょっと昼寝したかったかも。
「やーラビ君ご苦労様。ちゃんこっちこっち」
メガネは割れて散々ボコられた感たっぷりのコムイさんが科学室の中央で手を拱いていた。
横でまだ機嫌の悪そうな神田が腕を組んで座っている。
小走りに少し小高くなった中央部へ行く。
「あれ、髪どしたの?」
丸められた紙を解きながらコムイさんがちょっと目を丸くした。
「さっき神田に切ってもらいましたー」
「へー、神田君が…」
コムイさんが言葉を切ると横で座っている神田の殺気が増した気がした。
「き、器用だね」
神田に気付いたらしいコムイさんが慌てて付け加えた。
「コレ見てね、コレ」
コレ、と大きな机いっぱいに広げられたのはいくつかの銃火器の設計図だった。ランチャー、マシンガン、小銃、そんなところ。
「君のイノセンスね、あのままじゃ大きすぎるからちょっと威力落としても持ち運びやすい方がいいと思うんだよね。どれか選んで?」
いきなり選べ、といわれても。
コムイさんの顔を見る。
明らかに頬あたり青くなってて内出血してる。
「コムイさん、私あのままで良いです」
「でもアレじゃ」
「あのままが良いです」
念を押すようにコムイさんの言葉を待たずに言うとコムイさんは困ったように首を傾げた。
「まぁ本人の意思に反することはできないから強要はしないけど、あのままじゃ後々問題になるよ?」
「"機に臨みて変に応ず"って中国の昔の偉い人が言ったんですよね?」
「へー。見かけによらず結構物知りなんだねー、偉い偉い」
感心したような声をあげてコムイさんはポケットから飴玉を出して私の手に握りこませた。
「え、私もしかしてバカにされてる? これバカにされてるよね絶対」
コムイさんの遠まわしな嫌味に顔をあげるとコムイさんはニコニコしていた。
でも飴は返さないからね。
その向こうでは神田が怪訝そうな表情で何かラビの話を聞いていた。
神田とって完全に良いからかいのネタだと思うよ。
[PR]
動画