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「神田のバーカ。仏頂面ポニーテールージャップー」
「ア? もっぺん言ってみろコラ」
「いだだだだっ! 違うよ神田! ここは暴力に訴えるんじゃなくて抜刀するところ!」
「んな決まり無ぇーよ」
「私一回『神田殿ォ!殿中でござる―!』って言ってみたい」
「……」
「何その可哀想な子を見るような目」
「良くわかってんじゃねぇか」
じれったい奴等め
あ、またイチャついてる。
カップに口をつけながらそう思った。
コーヒーを啜りながら時々僕は談話室のソファを一つ占領して休息タイムを(勝手に)とる。
勿論コーヒーは美味しいし多量な責務から解放されるこの一時がとても好きだ。
だから今日もリーバー君が見ていない隙に抜け出してきてソファに凭れて休憩していた。
僕が来た時には既に先客が何人かいて各々で何か話していた。
その中で目立つのがエクソシストの二人。
一人は短気で凶暴な性格と噂される神田君、もう片方はこの間入団したここでは希少価値の高い女の子のちゃん。
ちゃんは入団してもう次の日には神田君の後をちょこちょこ歩くようになってて周りも正直僕も驚いた。
神田君はちょっと威圧的なところがあるし目付きが悪いから普通は敬遠されそうなものなのに。
それでも彼女は何の因果か神田君に懐いてしまい神田君も最初は苛立たしそうにしていたのに今ではもう慣れてしまったようだ。
そんな二人の仲を邪推する輩というのは少なくはない。(神田君が怖くて表立って言う人はいないが)
斯く言う自分もその一部である。
ちゃんは兎も角として神田君にその気があってもおかしくはないと踏んでいる。
だってどう見ても神田君、ちゃんに対する扱いが他とは別だし。
最初冒頭でちゃんが言っていた悪口を僕がうっかり口にしようものなら一瞬で痛みもなくあの世へ逝くことになるだろう。
それに「しょーがねぇな」とか愚痴を溢しつつもちゃんの世話をしてたりするし、任務が終わったらちゃんとちゃん運んでくれるし。
ちょっと親切な人とかなら確かに変な行動じゃないかもしれないけど、"あの神田君"が条件になるもんだから違和感がある。
仲間が怪我をしても「手前ェが弱いからだ」とうち捨てていくような彼が「しょーがねぇな」の一言でちゃんだけは許容するのだから疑ってしまっても変ではないだろう。
既に付き合ってると噂するところもあるようだがその見当は外れている。
二人の雰囲気から甘さは微塵も感じられないし神田君がどうこうするようにも思えない。
だからといってずっとあのまま、というのも観察者として全く面白くない。
僕はちゃんが席を立ったのを見計らって神田君に発破をかけに(からかいに)行った。
「かーんーだーくん」
「コムイ…」
許可もとらずに隣に座ると物凄い嫌そうに睨まれた。おお恐。
僕はコーヒーを一口啜って神田君の帰れオーラを誤魔化した。
「何だよ」
チッと舌打ちするのは彼が不機嫌を相手にアピールする癖だ。
僕は眼鏡を軽く掛け直すと極力周りに聞こえない声量で言った。
「いつ告白するの?」
「誰が、誰に、何の」
神田君が眉間に皺を寄せてこちらを向く。
それは宇宙人を見るときのような、ちゃんの言葉を借りるなら『可哀想な子を見るような目』で僕を見る。
「君が、ちゃんに、愛の」
言い終わるが早いかヒュン、という音がして喉元に冷たい刃先が宛がわれる。ちょっとヒリヒリするから切れたかもしれない。
早々に六幻を引き抜いた神田君は殺気だって睨んでくる。
「死ぬかコラ」
「ヤだなぁ、君の恋を応援してるだけなのにー」
「そもそも根本からして間違ってんだよ」
彼の額に青筋が浮かび、頬が引き攣ってくる。眼もどんどん殺気を帯びてきている。
そろそろ引かないと真剣に殺されかねない、そう思って降参の意を示そうと思っていた時だった。
「神田殿ォ!殿中でござる―!」
談話室に響くほどに大きな―それでも少し嬉しそうな声が聞こえてきて神田君が刀を引く。
いつのまにか戻ってきたらしいちゃんが満面の笑みで僕に向って親指をたてる。
別にそれを狙ってたワケじゃないんだけど…。
「ちゃん、神田君のご乱心だよー」
「ホラ神田! ここは『今一太刀、武士の情け!』!」
「言うか!」
ちゃんがニコニコしながら歩いてくる。
この二人、当分関係は変わりそうにない、何となくだけれども確信した。
神田殿ォ!殿中でござる―!と言わせたかっただけ。
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