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「……好きです。貴方のことをずっとこうして抱き締めていたいです」
「え、ぇええ!?」
Not Tonight -just you, nobody else but you-
コムイが(仕事をサボる為に)開催したパーティー。
食堂を貸し切って椅子を取っ払い絨毯を敷き、何故か楽団までついている貴族さながらのささやかを逸脱したパーティー。
雰囲気は慣れないがそれでもいつもの戦闘の日々を考えれば気が安らぐ。同時に、今任務で外に出ている仲間の不運を心底可哀想に思う。
ラビはほんのり色づくシャンパンをちびちび味わいながら壁に凭れて立っていた。
聞こえてくる軽快なワルツに耳を傾けながらそれなりに着飾った同士達を眺める。
とは言っても目を走らせても走らせても見えてくるのは男のスーツばかりで何も面白くない。
リナリーが向こうから手を振って歩いてきた時は思わず手を合わせて拝みそうになった。
「一人なの?」
「まーな」
黒いスカートの裾をひらりと躍らせてラビの横に立つ。
珍しく長い髪をアップにして胸元はあけてはいないが大胆に背中が開いたドレスを着ている。
動きづらそうにしているのを見るとコムイに見繕われたんだろうか。
「他の奴らだったらその内見つかんだろー」
そう言いながら群集に視線を戻すがやはり人だかりで誰が誰か中々判別し難い。
「そうね……探してたんだけど、見つからなくて」
「ユウが居りゃ大体横に居るんだがなー」
「神田は今ポーランドよ」
そうなのだ。短気で常時眉間に皺を寄せたの目付け係は今任務で外に出ているのだ。
だから今彼女が探しているという少女の行動は自分達では凡そ予測がつかない。運良く見つけるしかないのだ。
リナリーもそれを悟ったらしく持っている黄色い飲み物を手で遊びながら遠くを見るように一望する。
「もしかしたらアレンと一緒に居るかもな」
そう言ってもう一度群集に目を配ると老人のような白髪の少年が顔を歪ませて居た。横には誰もいない。
最後の望みも絶たれたさ。
肩を竦ませてリナリーに目で合図を送るとアレンはこちらを見つけ人ごみから逃れてきてツカツカとこちらに向ってきた。
人込みにでも酔ったのだろうか、少し足取りが覚束ない。
「アレン、お前大丈夫か?」
「はい……いいえ…」
頷いたと思えば首を振って今度は頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
うーとかあーとか唸り声が聞こえてくる。
「頭痛いの?」
「風邪かー?」
「……」
今度はだんまりか。手のかかる奴だ。
しかも白い頭を抱え込んだまま何かをブツブツ言っている。怖い。
「ア、アレンく」
アレンの前に屈もうとしたリナリーのグラスから少量のジュースが零れた。
それもその筈でアレンがいきなりリナリーの首に腕を回して抱きついたからだ。
リナリーの肩に顔を寄せたままアレンはまだうんうん唸っている。
なんてチャレンジャーだ。部屋の隅で他にも気付かれて無いから良いもののコムイに見つかったら確実に殺される。
「ちょ、ちょっと、アレン君!? アレン君どうしたの!?」
「……」
「私じゃないわよ!?」
リナリーの首にかじりついたままアレンがの名前を呼ぶ。
必死にでないことをリナリーが訴えても聞いていない。
「ラビ、どーにかしてよぉー。アレン君お酒臭いし」
「オッケー。アレン離れるさー」
中腰のままのリナリーに懇願されてラビが漸く酔っ払いの服を掴んだ。
そのまま引っ張っているとアレンは駄々っ子の様にイヤイヤと首を横に振る。
「アレン君、見つけたらいくらでも抱きついてて良いから離れて、ね?」
アレンの背中を諭すように叩きながらリナリーが交渉を始める。
を抱き枕か何かと勘違いしてやないだろうか。
「……」
反応したようにアレンが顔を上げる。
「お、離れるさ?」
希望をもってアレンから手を離すが依然として彼がリナリーから手を離す気配はない。
かと思えば急に腕を緩め今度は肩に手をかける。
リナリーから頭を離し俯いたままアレンが小さく呟くように、それでもはっきりと言う。
「……好きです。貴方のことをずっとこうして抱き締めていたいです」
「え、ぇええ!?」
「アレン、それじゃねぇから!! リナリーだから!!」
いきなりの人違いの告白に一番驚いたのはリナリーである。
アレンの頭を見つめながら嘘! とか叫んでいる。
ラビはなんとかアレンをリナリーから引き離し刺青のような痕があるアレンの顔を軽く叩いた。
まだ覚醒しきれていないアレンにラビは念を押すようにゆっくり単語単語で区切って話しかけた。
「落ち着けアレン・ウォーカー。お前が、さっき告白したのは、でなく、リナリーだ、人違いさ。いいか?」
「ん……」
「アレン、もう一回言うぞ?」
「…え、あ?」
アレンが顔をあげてキョロキョロと辺りを見渡す。
すると彼の白い肌はみるみると赤く染まりそれが耳まで達すると彼はラビの手を振り切ってリナリーの前に立つ。
まだ驚いていたらしいリナリーは何か聞きたそうに口を開いたが彼はそれをさせなかった。
「ほんとすみません、ゴメンナサイ、申し訳ありませんでした!」
何度も水飲み鳥のように頭を下げてアレンがリナリーに謝罪する。
リナリーの開きかけた口は言葉を発する機会を失い好奇に満ちていた眼は唖然とアレンを見つめている。
「ラービー、コニーチワ!」
「おぉ」
不自然な日本語に目を向けると白のパンツ姿にキャプテンハットのような横広がりの帽子を被ったが手を振っていた。
正直可愛いドレス姿を期待していただけ残念だ。
「、それ何の服さ?」
「英国海軍海尉正服」
かっこいいでしょ、と嬉しそうに金ボタンの黒ジャケットを広げて言った。
こんなちっこい上官ではあまり威厳はないだろう。
「今まで何処いってたん?」
「いやぁジェリーさん探してたんだけど見つからなくて」
ジェリーというのはここ教団本部の料理長のことだ。
がっしり筋肉のついた体躯に、サングラスをした長身の謎の多いインド人。
見た目も逞しい漢で料理の腕も確かなのだが、口を開けば女言葉のオカマである。
とは付き合いは長いが一体ジェリーの何処に彼女が惚れたのかラビは未だに聞き出せないでいる。
「コムイと喋ってんじゃねーの?」
「あぁそっか。じゃぁちょっと行ってくる!」
カツリと軍靴を鳴らして軽くターンすると少女はそのまま姿勢よくまた群集の中に行進して行ってしまった。
の後姿を見送って、ふと視線を巡らせるとアレンがリナリーに向ってまだ頭を下げていた。
―忘れてた。
都合よくラビの頭は一時的に二人のことをすっぱり忘れ去っていた。
しかし今が来ていたことも気付いていない様であるしこのまま自分が去っても気付かれないのではないか。
そう思いつくや否やラビはこっそりその場から立ち去った。
ラビはこの後リナリーに怒られます。
タイトルはマリリンモンローの某映画から
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