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ルールというものは破られるためにある。
同様に静寂というものは崩されるものにあるのだと神田は突如自室に侵入してきた同僚二人を見て思った。
「神田、耳とって!」
耳掃除
前置きも何もなく中央に躍り出た同僚の一人、が到底人に物を頼む態度とは程遠い態度で仁王立ちしている。
「………全身にお経かいて阿弥陀寺にでも行って来い」
「ユウ、耳なし芳一じゃなくて耳掃除さ」
すかさずオレンジ頭のもう一人の同僚が呆れた口調で突っ返す。
地方の伝承民話には詳しいのか、知識はあるらしいラビにたいしては耳なし芳一の逸話を知らないらしく首を傾げた。
「っていうことでユウ、からのご指名さ」
「説明が見当たんねぇぞコラ。それからそこのバカ、人のベッドに勝手に乗ってんじゃねぇよ」
既に我が物顔でベッドによじ登るを睨むも効果なくあっさり陥落した。
「何かね、耳がガサガサいうから見て欲しいの」
「ラビに見てもらえよ」
がポケットから梵天のついた竹製の耳掻きを取り出し勝手に準備している。
「ラビはなんか人の鼓膜突いといて『あ、ゴメーン☆』とか笑ってそうだから、ヤだ」
「え、俺ってそんなヒドイ男に見られてたん?」
ラビが慌ててを見る。ティッシュ箱を引き寄せるの言い分に軽くショックを受けたらしい。
はラビを無視して着々と自分の耳掃除の場を作っていく。
「神田……の膝枕は硬そうか。枕借りるよー」
「帰れ」
神田が一蹴するも、は特技の『聞かなかったふり』を最大限活用してベッドに横になる。
神田は眉根を寄せてすぐ横に居るオレンジ頭を睨んだ。
ラビは肩を竦めるとデスクに備えられた椅子に腰かける。
「かーんーだー」
座る場所を全て占領されて神田が大儀そうにため息をついた。
「ちょ、痛い」
「我慢しろ。動くな」
「だってコレ絶対奥当たってる痛い痛い!」
「五月蝿ぇ。思いっきり突くぞ」
たった数ミリ奥に耳掻きを動かしただけでは逐一体をビクリと跳ねさせる。
余り五月蝿くされても面倒なので慎重にやっているつもりなのに目の前で寝転ぶはバシバシと神田の足を叩いた。
窓の方向からラビのあくびをする声が聞こえる。
あまりの緊張感のなさと『自分は蚊帳の外です』と主張するかのような同僚を睨みつけると何を勘違いしたのか笑顔で手を振られた。
「イタタタタタタタ! 神田のバカ!」
自分の体ではないので痛さの度合い等知るはずもない。
このまま続けても不毛なだけだな、と耳掻きを抜いて畳まれたティッシュで拭う。
「あれ、終わり?」
寝転んだままが見上げてくる。
「五月蝿すぎて手元狂う。いっぺん風呂入ってからもう一回来い」
風呂上りの方が耳掃除はしやすいとよく言われる。
ははーいと聞き分けの良い返事をする。しかし一向に起き上がろうという気配はない。寧ろこのまま昼寝する体勢だ。
「じゃぁの次俺、オレ!」
「やるかボケ」
拭い終わった耳掻き棒をラビに向って投げつけると持ち主が非難の声をあげて慌てて起き上がった。
神田・ラビ・の日常話は結構あるんでボツネタ行き。
神田の枕はきっと蕎麦殻。
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