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「でも僕、の好きな人って神田だと思ってました」
急に頭を掻き鳴らすような頭痛がした。
恋に落ちる
修練場では大抵活気のある声が響き渡っている。
何かの掛け声、誰かへの声援。騒がしいが嫌いな空気ではない。
訓練中、今日は珍しく女の子の高い声が聞こえてきた。
端に目を遣ると黒髪の小さい少女がちょこんと座って真ん中で模擬試合をする神田に声援を送っているようだった。
が修練場にいるのは非常に稀だ。
戦いの専門エクソシストの一人であるが彼女はイノセンスの関係で肉体の訓練が凡そ必要ないからだ。
どちらかといえばいつも機関とか物理とかに精を出している。
汗ひとつかいていないところを見ると自分は訓練せずひたすら傍観していたのだろう。
「かんだー! あーもぅ、なんでそこ避けるの! たまには怪我のひとつしなさいよー!」
「うるせぇバカ!」
相手の攻撃を半身を捻ってかわしながらも神田が応援に律儀に答える。
仲は良いと思う。
何だかんだ言いながら一緒にいることは多いし神田は神田で彼女には甘い。
さっきの野次だって僕が言ったなら即行で六幻で斬り付けられてる。
…寧ろ差別っていうのかもしれない。
「アーレーンー」
下から声がして顔を向けるとがいつのまにかすぐ横まで来ていた。
ぼーっと神田の試合を眺めていたのを発見されたらしい。
「アレンも訓練?」
「はい、今終わった所ですけど」
首にかけたタオルで額の汗を拭う。そういえば熱気の所為か少し暑い。
「じゃぁ食堂行かない? 大声出してたら喉渇いてさー」
「良いですね」
「じゃあ一緒に行こ」
が僕の袖を掴んで出口に向い始める。
「え、神田は…」
真ん中の試合を見遣る。
神田がやっと抜刀したところだった。
「神田? …あ、ゴメンあの試合見てた?」
「いいえ全然」
すこし早口で返した。
にっこり笑って僕は不思議そうにしているの背中を押す。
僕はを修練場から出し、ドアを閉める際丁度試合を終えた神田と目が合った。
―スミマセンね、ちょっと借りてきますよ。
心の中だけで謝って早々に修練場の重々しい扉を閉めた。
だらだらと世間話をしながら階段を下りていると段飛ばしで前を行っていたが急に振り返った。
「アレンってさー、どんな子が好みなの?」
「…え?」
思わず足を止めて目下で首を傾げる少女を見る。
見下ろしているせいか余計小さく見える。
「どんなって……そんな唐突に」
「や、なんとなくさ。やっぱリナリーみたいな? ……あ、ダメ。リナリーは渡しませんよ」
が一人で出した答えに一人で反応して僕に敵意の目を向ける。
話跳びすぎだと思う。
「まぁ、リナリーは置いといて。僕は料理の上手い子が好きですね」
「へぇー」
自分から聞いてきたことなのに興味なさそうにはまた段飛ばしで階段を下りはじめる。
数段下りての反応を待ってみたが寧ろ彼女はより多く段を飛ばすことに夢中になっているように見える。
「…のタイプは神田ですか?」
自分だけタイプを教えるのは不公平だ。
意地悪く聞いてみると下で何かがコケる音と短い叫び声がした。
「イッター…! もう、アレン変なこと言うから!」
足を滑らせて二,三段ずり落ちたが腰をさすっていた。
別に僕のせいじゃないような気がするけど。
「いや変って…はいっつも神田と一緒にいますし」
の前まで行って手を差し出す。
「いつも一緒じゃないよ。お風呂もベッドも別だよ」
一緒だったら寧ろヤバイ。
が僕の手を素直に取って立ち上がる。
「でも僕、の好きな人って神田だと思ってました」
「……次はここの最上階からうっかりダイブしろと?」
じっとが僕が得体のしれない何かのように僕のことを見ている。
「あれ、間違ってましたか?」
「神田なんかに恋する子なんて大変だよ。何かにつけて舌打ち、からかうと時々キレるし!」
舌打ちするのは別として、恋した相手をからかうなんて小学生みたいなこと普通ないんじゃないだろうか。
「じゃぁ、のタイプはどんなですか?」
の手を離さずぎゅっと握りこんで笑ってみた。
は少し頬をひくつかせて躊躇していたが諦めたように虚空を眺め考え始めた。
「……強い人がいいな」
ぽつりと呟く。
「強くて優しくて、大きな背中してて、それでもってミステリアス!」
「…大きな背中に…ミステリ…」
想像してみると背の高いボディビルダーが仮面をつけて花を愛でていた。
……これはないだろう。
現実にいたらイノセンスをもってしても何だか勝てそうにない。
「例えば、んー…ジェリー師匠…?」
が笑って手を引っ込める。
ジェリーさん…恋愛対象? いや確かに男の方ですけど。
「……考えてみたらジェリー師匠って凄い魅力的じゃない。かっこいいじゃない。ヤバ惚れそう!」
一人で盛り上がり始めて何だか恋しかけている。
彼女は何か間違えてやしないだろうか。
「、落ち着いて、一回深呼吸してみて」
「無理無理無理。いやだ私ったら今までジェリー師匠のミステリアスな魅力に気付かなかったんだわ!」
大仰に頭を抱えてが首をぶんぶんと振る。
僕はの両肩を掴んで少し屈んで目線の高さを合わせた。
「それは恋じゃありません、、落ち着いてみて下さい」
「ううん、アレン私真剣だから!」
「僕も真剣ですから」
…何言ってるんだろう僕、会話になっていない。
は不思議そうにしていたがにっこり笑うと彼女の肩に置かれていた僕の手を持つ。
「私の好きな人、他に漏らさないでね」
秘密、と笑ってが僕の横をすり抜ける。
「一足先にジェリーさんに会いにいってきまーす」
今度は二段飛ばしで階段を駆け下りていく。
僕はため息をついて、早足に階段を下りた。
ジェリー←(←アレン?) ナニコレ。
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