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「あ…今日は休みですよ」
「そりゃ良かった」
宿縁
治安が悪かったり良かったりのベン・シティーでは酒場の給仕として働いていた。
普通の客以外にも無頼漢・ならず者も訪れる酒場は血の気が多く実際客同士喧嘩になると止めようがない。
はいち早くカウンターの影に隠れる業を身に付け、なんとか女ながらに仕事をこなしていた。
週に一度の休みになるとマスターは食料調達に出かけてしまうのではのんびりダーツで暇を潰しながら留守番をしている。
2ヶ月前に保安官のモンタ・ローが流れ者に怪我を負わされたこと以外はベン・シティーは落ち着いていた。
だからも特に鍵はかけずカウンターにもたれながらダーツの的を眺めている。
的の下にはが当て損ねた矢がごろごろと転がっていた。
「どうも」
からからと鐘が鳴って来訪客を知らせる。
「あ…今日は休みですよ」
「そりゃ良かった」
が気だるそうに顔を上げると口の端だけで笑うカウボーイが立っていた。
ロック・ナコトネー・キッド
顔を見たことはなかったが特徴だけは聞いていた。
長い黒髪にボロボロの服、変に曲がった眉毛に反してどこか落ち着いた、老成した雰囲気。
彼がこの町に流れてきて以来無法者だとか今まで100人殺してるとか噂はあったがこうして見てみると以外に普通かもしれない。
「お酒、飲みに来たんじゃないし」
キッドはそう言ってテーブルを避けながら近づいてくる。
―もしや店の売り上げ奪いにきたとか!
噂通りの風格なら中身も噂通りかもしれない、はカウンターの影にさっと隠れた。ダーツの矢を誤って落としてしまう。
「……何してんの」
「レ、レジに今お金はありませんよ!」
カタカタと震える手を握り締めてが叫ぶ。
鍵をかけておかなかった自分を呪った。
一方キッドは眉尻を下げ肩を竦めると、カウンターに回りこむ。
「お金も目的じゃないよ」
キッドも慎重に言ったのだがは一人パニックに陥ってわたわたと慌てている。
どうやら自分を強盗やら殺人鬼と勘違いしているようだった。
「き、キキキキッド、さん」
「おや、知ってたの。嬉しいねぇ」
「無法者のカウボーイ……さん」
「えらいあだ名がついたもんだね」
なかなかと警戒をといてくれない少女の前に屈みこんでキッドはふっとため息を付いた。
「で、おたくの名前は?」
「ゾフィー・ルイーゼ・フォン・スタール・リーベンスコフです!」
「嘘でしょ。どこの国なのソレ」
キッドが顔を歪めるとはビクりと竦んだ。
口を何度かパクパクさせて
「…・、です…ゴメンナサイ」
と呟いた。
「そうか、、か」
噛みしめるようにキッドが繰り返す。
「あの、さっきも言った通り今日はお店、休業なんですけど…」
「あー……だろうね」
キッドがボロボロのテンガロンハットを片手で押さえつつ落としたダーツの矢を拾う。
普段の落ち着きは取り戻したもののには到底この変人の思う所が計れない。
ダーツの針がキッドの手の中でクルクル回る。
そう思った瞬間、矢は自分の頭上を掠めて飛んでいった。
首を回して見ると壁に吊るされた的の真ん中に二本、矢が命中していた。
すごい、と一瞬感動を覚えかける。
「」
名前を呼ばれて強引に首を戻されると目の前に流れ者のカウボーイが居た。
無法者を前に目を離してしまったことを自分で後悔する。
本能的に目を閉じると顎を持たれて、唇に柔らかいものがあたる。
目を開くとちゅ、と音をたててカウボーイの顔が少し離れて微笑んだ。
「へ? ……え、え?」
「ま、そーいうこと」
「え、ちょ、何……んっ」
「ゴメン、今日は挨拶だけのつもりだったんだけど、無理そう」
「ちょ、ストップストッ」
「」
「ヒィィィィイィィ!」
「…そんな明ら様に避けられると傷つくんだけどな、こっちも」
の大声に一瞬食堂が静かになったがまたぽつぽつと笑い声混じりに話し声が聞こえてくる。
西部高校・学食。上機嫌にうどんをすすっていたは後から掛けられた声に竦みあがった。
振り返るまでもなく本能的に相手を悟り、ガタガタと椅子を動かして背後の人物から間合いを計る。
テーブルの対でお弁当を食べていた比奈は慣れた様子でウインナーを飲み込み困ったように笑うキッドを見た。
「嫌われてるねー。に何かしたの?」
「話しかけたこと以外ないかな」
の横の椅子に腰を掛けるとまた小さな悲鳴が上がった。
「、なんでそんなキッドのこと怖がんの?」
は既に椅子から落っこちているので比奈からは見えないが質問を掛ける。
「なんだろ…本能?」
が一つあけて椅子に座り直す。明らかにキッドを避けている。
「本能、ねぇ」
「岡婦長に聞いたら『前世からの因縁よ!』って言われた」
まさかね、と言ってが笑う。
キッドは眉尻を下げ、コーヒーに口つけた。
アイシ16巻のオマケを見て無意味にキッドに萌え。
勢いだけで作った。反省。
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