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「ふっふーん、いいでしょ神田ージェリーさんから貰ったアーイスー」
が満面の笑みで三角コーンにのったクリームを舐め取る。
神田はそんなに一瞥だけくれるとさも迷惑そうに舌を打った。
「羨ましくない」
「一口あげよーか?」
返答を聞いてすら居ない。言葉のキャッチボールができていない二人を横でアレンは黙って見ていた。
「要らん」
「はい、一口だけね、一口」
眉根を寄せて首を背けているのに相手は全く汲み取ってくれない。
そのまま放っておこうかと神田が何となく考えると横で短い悲鳴が上がった。
悲鳴につられて横を見遣ると今にもこけそうな体勢で腕を振って耐えているが見えた。
とりあえず腕をひくとが廊下の真ん中でズッコケルという事態は免れたがはひどく泣きそうな表情をしていた。
「アイスこぼれたぁ〜」
「あぁ、よしよし可哀想に」
「ソイツ甘やかすんじゃねぇよモヤシ」
が泣きまねをするとアレンが腕を伸ばしてを確保する。
宥めるようにの背中を叩くと神田が機嫌悪く言った。
「神田のバカー」
「斬んぞコラ」
日々を生きるボクラ
結局は暴言に対して神田から一発制裁を受けたはアレンの部屋でじんじんと痛む頭を押さえていた。
グロテスクな置物ばかりが目立つこの部屋は食堂から近いとアレンは喜んでいるが他者からすればビックリ箱よりも恐ろしい戦々恐々とした部屋だった。
はアレンと意見が一緒で最初は『私もこの部屋に住みたい』とアレンにルームメイトを申し出たこともあった。一瞬で周りに諭されて却下になった。
アレンはベッドの縁に腰掛けて勝手にベッドを占領して寝転んでいるの髪を何ともなしに弄っている。
「神田のバイオレンス志向はどうにかなりませんかねアレンさん」
「いや、さっきのは100%が悪かったです」
至極尤もなアレンの返答にが項垂れる。
あーとかうーとか呻きながら目の前にあった枕を叩くと細かい埃が跳ねた。
無論アレンの枕だ。
「ほら、今から食堂行ってアイス貰ってきてあげますから機嫌を直して下さい」
「私も行く!」
食堂、という単語に反応してがむくりと起き上がる。目をキラキラさせてアレンを見た。
「はここに居てください」
微笑んだままアレンが突っ返す。
「何で」
「んー……に意地悪したくなったからです」
尚も微笑みを崩さないアレンには唇を尖らせた。
同時にの脳に軽い警笛が鳴った。アレンが意地悪くなった時は大概からかわれるのがオチだということを今までで学習している。
「じゃぁ行ってきます。ストロベリーでよかったですね」
の返答を待たずアレンがさっさと部屋を出る。
これでバニラー!と叫んだらアレンが慌てて戻ってきそうなのでストロベリーでいいかと思った。
ついでに帰ってきた時は意地悪い気分も抜けてるだろうと勝手な観測を持ってもう一度他人様のベッドに横たわった。
15分程して再度部屋の扉が開く。
みたらし団子の用意に予想以上に時間を要したがは何をしているだろうか。
アレンはみたらし団子とアイスを両手に持っていた。アイスはコーンだとまたこぼす可能性を考えてカップにしてもらった。
「?」
音のしない部屋を不思議に思って名前を読んでみる。返答はない。
このパターンは、と思ってベッドを見遣ると案の定驚異的な早さで眠りに落ちたであろうが定期的に胸を膨らませて寝息をたてていた。
とりあえず団子とアイスのカップを適当なインテリアの上に置く。
人の気配に鈍感な彼女は仰向けのまま動こうとしない。
アレンの部屋はグロテスクな置物以外に通常の部屋と異なる点がもう一つあった。
天井高くに取り付けられた心もとない電球とこれまた高い位置に取り付けられた小窓以外に採光の場所がないことだ。
部屋は常に薄暗くアレンはいつも本や資料を読む時はどこかへ移動せざるを得ない。
もう一度、ベッドの縁に腰を掛ける。の髪を梳くとサラサラと流れた。
薄暗がりの中、は機嫌よく寝息をたてている。
どうやって起こそうか、アレンは思案しながらを眺めた。
は薄いシャツ一枚にスカート、ベッドの上なのでブーツは脱ぎ捨て靴下のみのラフな格好をしている。
スカートは捲れ上がっているが下にスパッツを履いていたらしい。少し残念かもしれない。
このまま叩き起こすのも手だが面白くない。
アレンはそう思うと一瞬の間をおいてベッドの縁をずりずり移動しての足元で座り直した。
黒い靴下を丁寧に脱がせると白い足が見えた。
女性特有の丸みを帯びた脹脛を突付くとぷにぷにと肉が押せた。自分の腕を見ると筋肉で硬くゴツゴツしていた。男女の差だ。
今度は足の裏を撫でてみた。反応がない。
まだ熟睡までいっていない筈なのに鈍すぎる。
軽く爪をたてて触れるか触れないかのところを往復させる。
ピクリと足の指が反応した。
このままくすぐったら起きるだろうか。
「んっ…ん、ふ」
微妙にかすれた声にすごく悪いことをしている気がしてきた。
足が逃げようとするが簡単に捕獲する。
「う…ん? アレン?」
「オハヨウ御座います」
「え、ちょ、何しアッハハハハハハハハ!」
両方の足を腕で挟みこむ。起きたらしいが一人笑い転げながらアレンから逃れようともがいた。
「いや、こうしてたら起きるかなって」
「起きた、起きたよもう!」
「ってくすぐったがりなんですね」
が必死に自分の覚醒を訴えるがそれでもアレンがやめる気配はない。
「ダメだってアレ、ンん、セークーハーラー!」
「……本当にセクハラしますよ?」
自分の笑い声ではアレンの低く呟いた言葉を聞き逃した。
聞き返そうとした瞬間、気が付くとアレンは靴のままベッドに上がりの腹部に跨った。
馬乗り状態、マウントポジション。
部屋が暗くからはアレンの表情が読み取れない。
「え、何、私プロレスの寝技とか知識皆無なんだけど」
とりあえず手でファイティングポーズをとる。
目が慣れてきて、アレンの満足そうな笑顔が見えた。
「」
の腕を簡単に払い除けてそのまま顔を近づけた。
「あんまり油断してると非道いことしますよ」
「油断とかしないから無問題かな!」
うっすらと開いた暗い色の瞳を見返してが答える。
アレンはため息をつくと右手の手袋を丁寧に外す。
「はい油断ひとつ」
「痛ァッ!」
ただぼんやりとアレンの行動を見ていたの額に衝撃が走る。
アレンのデコピンが不意打ちの分も相まって余計に痛さを感じた。
「今日はここぐらいで勘弁してあげますよ」
「いぃーたーいー!」
「でしょうね」
の抗議はあっさりと無視してアレンがベッドから降りる。
はおでこを押さえたままむっつりした顔で起き上がる。
「ほら、アイス溶けますよ」
「じゃぁ靴と靴下履いてる間に溶けたらアレン恨む」
「そこまで部屋の気温高くないですよ」
普段は寧ろもっと冷たいんですけどね、そう付け加えるアレンの言葉をは裏返しに履いた靴下を直すことに夢中で再度聞き逃した。
こんな日常。 ヒロイン相手だと真っ黒になりきれないアレン様。
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