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「じゃぁ、2時に時計台の下で待ち合わせましょう」
「オッケー」
買い物情事
ひ・さ・し・ぶ・り・の・外!
建物に切り取られた空。
がやがやと騒がしい通り。
懐かしい匂いのする噴水広場。
コムイさんに我侭言って教団本部の外に買出しという名目で出させてもらった。
けど保護者としてアレンがつけられたあたりあんまり信用されてないかもしれない。
街中まで龍彦で来るわけにもいかず今日は久々に列車に乗って街まで出てきた。
イノセンスがないから当然私服で。丸腰なのに団服着てて襲われたら困るし。
ショッキングピンクのスカートにしようかとアレンに言ったら止められたから手持ちの白いスカートにした。
アレンはピンクが嫌いらしい。多分。
列車内で買い物リストの真ん中に線を引っ張ってアレンと半分ずつ手分けして買い物をすることに決めた。
半分こした筈なのに私の買い物の分が少ない気がする。アレンにしてやられた。
袋一つで済んでしまった買出しに肩透かしを食らい、余った時間を表通りのウインドウを見て楽しむことにした。
綺麗な服が並び立ち、ピカピカのアクセサリーが私を誘惑する。
買う予定はないけれど、見ているだけで楽しい。
いや服だけ買おうかな久しぶりに。
「うぁっ、ゴメンナサイ」
一人で鼻歌を歌いながら歩いていると急にぐらりと揺れて私の体が地球と仲良くし始めた。
よそ見してたのがいけないらしい。パフェの匂いにつられていた鼻がキャメル色のコートに衝突して転んだのだ。
「イエイエ、コチラこそ♥」
ふと見上げると高い帽子を被って眼鏡をかけた年齢のわからない紳士が傘を持って立っていた。
顔のわりに口が大きい耳も大きい。というか全体的に大きい。
背が高いとかじゃなくて縦にも横にも大きいお腹も大きい。コートのサイズは何号なんだろう。
しかも微妙に変な訛り方している。どこの人だ?
「お嬢さん、毛糸の売っている店はどこでしょうカ?♥」
紳士が首を傾げる。
出身地どころか表情も読めない人だ。
「えと、ここから一つ東の路を北に直進して三ブロック行った所を曲がりそこから二ブロック先の右手の銀行の隣の3階西フロアーにありますよ」
「ハァ…♥」
紳士が反対側に首を傾げる。口は歯を剥き出しに笑ったままではあるがわかってないらしい。
「案内しますよ」
「ありがとうございまス♥」
傘をカツリと鳴らして紳士が言った。
声で判断するに、嬉しいらしい。
「編み物でもなさるんですか?」
「ええ、ちょっとした趣味でしテ♥」
紳士の後にいると前がまったく見えなくなるので私は横に並んで歩くことにした。
「あなたは買い物ですカ?」
「はい、時間が余ったのでブラブラーっとしてたんです」
紳士が笑う。顔は常に笑ってるけど。
「それは良かった、この後一緒にお茶でも如何です? お礼をさせて下さイ♥」
「良いんですか?」
「はい、モチロン♥」
時間はまだまだあるし、いいよね。
なんだかよくわからないちょっとカッコいいミステリアス紳士とお茶なんて普通できない体験よね。
久々に街に出てきてラッキーだ。
「申し遅れましたが・といいます」
「我輩少々ナマエは言えませんが、伯爵と呼んで下さイ♥」
伯爵?
伯爵ってことは、貴族の人? 名前も言えないような貴族がお忍びで趣味の買い物?
何、余計にカッコいいじゃない。ミステリアス、かっこいいじゃない。
……ああダメ! ごめんなさいジェリー師匠! 浮気なんて滅相も無いです!
「どうしましたか? ミス♥」
一人屈んで悶絶していると伯爵が声をかけてきた。
いきなり私がしゃがみ始めてしかもブツブツ言ってたから多分変な子だと思われた。
「なっ、なんでもーもありません! ッ!」
噛んだ! 慌てて言ったら噛んだ!
私が笑って誤魔化していると伯爵は笑ったまま傘をくるりと回した。
ちょっと可愛い。ちょっとヤバい。
「え、えぇと、伯爵、そこの角を曲が」
「!」
「へ?」
そこの角、と指差した先の道からアレンが突っ込んできて通り過ぎたかと思うとそのまま私は腕をひかれてアレンに攫われた。
向こうで伯爵吃驚してるよ。やっぱり顔変わってないけど。
周りにいた少ない通行人がさっと路の脇にどく。
「! 大丈夫ですか!? 何もされていませんか!? 何で一緒に居るんですか、何があったんですか!」
アレンが珍しく怒った様に、必死に私の肩を掴む。心配されてるんだろうけど、あんまり心配されてる気にならない。
一気に質問されてもどう答えろと。
折角買った荷物がパラパラとそこらに転がっていく。
「アレン、落ち着いて…」
「伯爵!」
私の言葉も無視してぎっとアレンが伯爵の方へ振り返る。
知り合いらしい。
「……アレン・ウォーカーですネ。と、いうことはその女は仲間ですか。イノセンスの反応がないということはエクソシストではないのですカ?♥」
「白々しいッ…!」
アレンが手で傘をいじっている伯爵を睨みつつ左腕のイノセンスを発動させた。私の肩を掴んでいた右手に力を込もる。
何の話? 毛糸の話は?
話に頭がついていけない。伯爵は何故イノセンスの存在を知っているの?
次の瞬間、肩が軽くなった。アレンが私の横を飛び出していた。
大きな手が伯爵に向って伸びる。
「アレン! ダメ!」
その人はアクマじゃない!
アレンを止めよう手を伸ばしても届かなかった。
彼の左手が大きく空をかく。その場所からは伯爵が忽然と消えている。
何?
「、お茶はまた今度でス♥」
耳元で囁く声
振り向くと伯爵の笑った おぞましい皺のよった顔
脳が直接ガンガン打ち鳴らされる感覚
これは、警報だ
「!!」
アレンの悲痛な叫び声がした。
「まったく! 知らない人について行ってはいけないことぐらいわかってますよね!?」
「ごめんなさい…」
帰りの途中、アレンがすごい剣幕に捲し立てて説教してきた。
列車のコンパートメントの一つに腕を組んで座っている少年と向かいに正座して反省中の私を外から見たら多分皆吃驚する。
あの後、私はなんともなく、ただ変わったことと言えば伯爵が目の前から消え、私の手の中に小さい飴玉が残っただけだった。
折角貰ったんだし、と食べようとしたら飴玉はアレンに取り上げられ今はがっちりバッグの中に保管されている。
伯爵が千年伯爵だと知らなかったと言うと、説教の内容がすごく幼稚なものに変わった。
誘拐されかけた小学生みたいだ。
「今回のことはきちんとコムイさんに報告しますし、多分報告書も書かされますよ」
「ホント? 私報告書書くの初めて!」
任務から帰るといっつもすぐに寝ちゃうから報告書、書いたことないんだ。
初体験!
「」
一人喜んでいると刺すような視線でアレンが私を制した。冷たいよ。
「……もう、心配かけさせないで下さいね。今回は逆に龍彦がなくてラッキーでしたけど次は死んでしまう可能性だってあるんです」
ため息をついてアレンが哀しそうに私を見て身を乗り出すとぎゅっと私抱きしめる。
彼の手が少し震えていて本当に心配をかけてしまったんだと理解した。
胸にちくりと針が刺さる。悪いことしたな。
「ありがとう、ごめんなさい、アレン」
「……はい」
アレンが私を離すと柔らかく笑って私の頭を撫でる。やっぱり小学生扱いですか。
一瞬伯爵に惚れかけたのは秘密にしておこう。アレン今度は烈火の如く怒る。多分。
自分で反省するためにもうちょと正座しとこう。
その後、コムイさんは余計に外出させてくれなくなった。ヒドイや!
そのまま伯爵に惚れてたら咎落ちしてそうだ。何て危なっかしい(笑)
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