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眠れない
7
寝る前にカフェインをとったということでもないが、アレンはベッドに入っても寝付けなかった。
もしかしたらシャワーが水だったのが問題なのかもしれない。目が冴えている。
アレンはゆっくり起き上がると部屋を出て、デッキに上がった。
空が澄んでいて星と月が明るい。満月が存在感をひしひし主張してくる。
眼下には途方も無い森が黒い海のように広がっている。落ちたら帰って来れそうにない。
風が全身にぶつかるので前甲板にはいけそうにない。砲塔の後に隠れるのも癪な気がして、後甲板に回る。
後甲板は前に艦橋があるおかげで吹き付く風はゆるい。
広くは無い広場に残りの同乗者が居た。
と神田だ。また一緒にいる。何かといえば一緒にいることが多い気がする。
「…モヤシ」
意外にも先にアレンに気付いたのは神田の方だった。
アレンを見た途端目付きが悪くなる。聞こえはしないがきっと舌打ちしただろう。
「アレンも眠れなかったり?」
がおいで、とばかりに手をこまねく。
「えぇ、まぁ」
アレンがの横に座ると神田が苛々と持っていた杯を仰いだ。
「アレンも飲む?」
神田が持っていたのと同じ小さな杯が渡される。匂いを嗅いでみると何かのフルーツの匂いがした。
「何のジュースですか?」
「ノンアルコールワイン!」
ひょいと見てみれば確かにの向こうにワインの瓶が何本もおかれている。
本当に飲んでも大丈夫なのだろうか。
「しかしアルコールは私が抜いたものなので明日頭が痛くなっても責任は負いかねますヨ」
本当に大丈夫なのだろうか。
アレンはもう一度並々と液体が揺れる杯に視線を落とした。
「あーあ、つまんない。折角の任務も明日で終わりだよ、お先真っ暗だよ。寄り道しても怒られないよね」
「怒られるな」
「怒られます」
がポツリと言うとアレンと神田の声が被った。
は不満気に口を尖らせる。
「は外の方が好きなんですか?」
杯を手で遊びながら、アレンが聞く。
矢張りアルコールが怖くて少しずつでしか飲めない。
「そりゃぁもう、ホームでカビ生やしてるよりは断然。ねぇ神田?」
「何で俺に振る」
急に話題を振られて尚神田が無表情で返す。ぶっきらぼうだ。
「神田ってなんか籠の中に入れられたら籠を壊してしかも自分を籠に入れた人を六幻のサビにして外に行きそうだから」
「……わからなくはない例えですね」
笑っての頭を撫でる。
神田は無表情は崩さずを見ていた。
「アレンはね、アレだ。口車に乗せてドア開けてもらって颯爽と逃亡するんだ!」
どっちにしろ逃げることにはなるらしい。
しかもいつのまにか逃亡論になっている。
「なんか僕口先だけみたいじゃないですか」
「モヤシには似合ってんじゃねぇか」
がニコニコと笑って神田が鼻で笑う。
「神田なんてただの力押しだけどね!」
更にが言う。今度は神田がを睨んだ。
「誰が芸の無い力押し強盗だと?」
「え、いやいやいや。そこまで言ってないよ!」
が慌てて手を振って本気で抜刀しそうな神田を制する。
それでも神田が睨むので、は機嫌を取るために神田の横についてお酌をし始めた。
お酌するといっても結局はで。杯にギリギリまでワインをいれて神田を困らせている。
面白いのでアレンはなんとなく眺めていたがふと欠伸が出た。
「そろそろお開きにする?」
アレンに気付いたが立ち上がって言った。
「そうですねぇ…」
は二人の返答を聞きもせずガッチャガッチャと片付けを始めている。強制終了なのだろうか。
「…、今日は夜通しで付き合ってやる」
神田が呟くと空瓶を集めていたが目を丸くして振り返った。
「もしかして私、神田にアルコール抜いてないやつ飲ませちゃった?」
「俺は素面だ」
が神田の横に座って顔を近づける。
「ホントだ。アルコールは入ってない」
一頻り調べてが首を傾げる。
「ああ、神田は『槍が降る』っていう現象が見たいんだね!」
「違う」
神田がため息をつく。
そこまであたかも冷血漢かのように言われる神田に少し同情したくなった。
「神田、無理する必要ないよ」
「無理じゃねぇ」
「うん、そっか」
が一度頷いて神田にアリガトウ、と笑いかけた。
快活な少女のそれは月の所為だろうか、どこか弱弱しい笑顔に見えた。
「アレンは?」
神田の向こうからが顔を出す。神田が帰れ、という視線を送ってきた。
「勿論ご一緒させてもらいます」
神田の視線に従うのも癪だったので、アレンはにっこり笑いかけ持っていた杯を空にした。
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