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出遅れた。
気付いた時には既に二人はもうラッタルを上りかけていた。
3
アレンが慌てて後を追う。
『三番より、レベル1二体、レベル2一体、右20度、距離約5000 高度600 速度80 一六二五』
スピーカーから加えてコムイの声で報告が入る。
ラッタルを膝にぶつけながら這い上がり、艦橋に出るとは更に上へ上へ行っていた。
「神田は前甲板に出てて! アレンは上!」
ラッタルの上からが叫ぶ。
出て行く神田を尻目にアレンがまた慌ててを追う。
「た、龍彦! 速度18ノット、*ヨーソロ!」
走りながら、半分喘ぎながらが叫ぶ。体力はあまりある方ではないようだ。
「対空砲火撃ち方用意! 一番、二番機銃西南西仰角35度! 主砲仰角20!」
次々と司令が艦になされていく。
は前面が全て見渡せる部屋につくと足をとめ、計器類とガラスの向こうを交互に睨んだ。
「アレンはもういっこ上で待機、私がもしAKUMAを逃したらお願いするわ!」
「わかりました!」
本当はよくわかってはいなかったが、アレンはもう一つ固い階段をよじ登った。
「はぁ、…」
ラッタルから這い出ると、船体の屋根に出たようだった。
艦首に神田が立っているのが見える。
ふきっさらしの風は強く空が全面に広がっている。煙突が唸り黒煙を吐き出す。
下を見下ろせば森が広がり、どこにアクマがいるのか、肉眼ではわからない。
アレンは手袋を外し、来るべき戦闘に備えた。
『敵襲来! 距離1000! 高度524 一六二八!』
『*テー!』
スピーカーからコムイと、の声が交じり合って響く。
途端同時に上を向いていた右舷の機銃が二つ、同時に火を噴く。
機銃は短い破裂音を響かせまだ米粒のような敵に向かって次々高速で弾を撃っていく。
―やったのか?
一頻り機銃の砲撃が終わった後、アレンが辺りを見渡す。
青かった空は一面黒い弾幕で覆われ、アクマの姿どころか周りは全然見えない。
『レベル1二体撃墜! レベル2正面仰角20度!』
『主砲撃ち方始め!』
今度もコムイとの声が混声して、甲板の一番前にあった砲が轟音を鳴り響かせて空を更に黒く染めた。
機銃とはまた別の、腹に響く音はアレンの足元をも振るわせる。
―正面か
『レベル2、撃墜。敵全滅! 一六三三 オメデトー』
スピーカーから抑揚に乏しいコムイの声が響く。
アレンは肩透かしを食らったような、ほっとしたような気分になる。
あっけないといえば、あっけなく。壮大といえば壮大な戦いであった。
いきなりの音に耳鳴りと眩暈がしたが、どうにか下に下りるとが笑顔で出迎えてくれた。
「ゴメン、アクマ襲来時について説明しようと思ってたんだけど、先にあちらさんから来ちゃったね」
「ああ、うん……凄いね、凄かった」
口から突いて出たのは間抜けな感想だった。
他に良い形容の仕方がアレンには見つからない。
「今更だけど、言った通り私はエクソシストでイノセンスは勿論この船『龍彦』ね。
完全に長距離戦タイプで、威力はあるんだけど命中率はそんなに高くないから近距離タイプの人に取りこぼしを潰してもらうの」
砲弾一発でレベル2すらも瞬殺だったのだから、確かに攻撃力は高い。
「ところでなんであれ、コムイさんの声がしたんですか?」
「ああ、船底と、船の周りは常に索敵ゴーレムがアクマの飛来を警戒してるの。アレ作ったのはコムイさんでね、
敵発見時の報告の声、誰が良いって聞かれて。神田に頼もうとしたら凄い勢いで拒否られたからコムイさんにやってもらったの」
が言うには結構ノリノリで声を吹き込んでいたらしい。
アクマ襲来毎にスピーカーから毎回神田の声がするのは何となく嫌だなぁとアレンは内心思った。
「あ、アレンのイノセンスは寄生型? すごいなぁ良いなぁ。私も龍彦に寄生しようかなぁ」
そしたらシンクロ率100%間違いナシだ! と喜ぶ少女の不吉な言葉をアレンは聞かなかったことにした。
*ヨーソロ…宜しく候の略。このまま直進という意味。
*テー!…「撃てー!」と言うのに『ぅてー!』となり、『う』が落ちてテー!と聞こえる為。
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