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「コムイさん、アレンです」
『やぁアレン君。そっちどうだった?』
「ハズレでした」
『そう。ところで今どこ? 街の中?』
「はい、やっぱり人多いですね」
『じゃ、ちょっと森の中で4時間ぐらい待っといてよ』
「ハ?」
『君がもうすぐそっち行くから合流して帰っておいで』
「コムイさん? ちょっと待っ」
『出来るだけ高い木に登っとくと良いよ。その内無線ゴーレムが飛んでくるから』
「コムイさん、コムイさん!」
1
コムイから一方的に回線を切られ、大体3時間がたつ。
アレンはあれから何度も掛けなおしたが繋がることはなかった。
コムイの真意も汲めないまま律儀に森まで戻り、高めの木を見つけて久しぶりの木登りをすることにした。
楽そうに頭上を飛んでいくティムキャンピーが憎らしい。
上の方まで来て、アレンは安定は悪いが幹の上で休息をとることにした。
風が強くあまり長いこと立ってはいられない。
アレンは目下の緑色の情景を眺めながらため息をついた。
ホームへ帰るのにわざわざ合流する必要性が見当たらない。
コムイの言っていたなる人物もアレンは見たことがなかったしましてや会ったこともなかった。
空を見る。あざ笑うかのように一面青色に光っている。
考える材料のなくなったアレンはとりえあえずという人物が神田みたいな人でないことを祈ることにした。
『こんにちは、ミスターウォーカー?』
祈り始めて20分、突如として羽根の生えた黒い物体が上から降ってきた。
アレンは最初ティムキャンピーかとも思ったが色を見てすぐに判断を直した。
誰かの無線ゴーレムであるらしい。回線の向こうから少女の声がする。
「はい、僕がアレン・ウォーカーです」
『コムイさんから話は聞いていると思います。・です。もうすぐ着きますので準備をお願いします』
丁寧な口調だった。ということは神田と同じ国の人だろうか。
「はい、じゃぁ木から下りたほうが良さそうですね」
『あっ下りないで、すぐ梯子垂らしますから』
「はしご?」
どういうことだろうか? 上を見る。勿論梯子を垂らせるような場所はない。
『右斜め後方です、ミスターウォーカー』
言われた通りにぐるりと首をまわす。当たり前ながら誰も居ない。
その代わりに遠くに木の上を舐めるようにこちらへ向かって滑ってくる鉄鋼船が見えた。
「え、ハァ?」
驚いて情けない声が出た。空に浮かぶ船なんて聞いたことがない。
帆船ではない、れっきとした鉄の、軍艦だ。
艦は悠然と、尚けたたましい重低音を響かせあたりの木々を薙いで来る。
『それでは、梯子に捕まれたら登ってきて下さいね』
無線の向こうで少女が言った。
船体に書かれた十字架がチラリと見えた。
「ようこそ、ミスターウォーカー。砲艦『龍彦』へ、私が艦長を務める・です。
私は彼方を歓迎します。どうぞホームまでの三日間ご自由にお使い下さい」
垂らされた縄梯子をやっとのことで登り切ると甲板の上に少女が待ち構えるように立っていた。
アレンを出迎えたは意外と小柄で幼い。肩までの黒髪とエクソシストの黒い服が甲板を滑る強風に煽られている。
彼女の後ろには巨大な砲が据えられており、機銃もいくつか舷に沿って並んでいた。
「じゃぁ、先ず話は中でするね」
そういってがくるりと向きを変える。さっきの挨拶は儀式的なものなのだろうか。
「龍彦ー! そくーどー*三〇ノットォー、*おもーかじー四〇度ー!」
どこかに向かって異様な抑揚をつけてが叫んだ。
途端重々しい機械の音がして、船が左に傾く。
コケそうになったのを必死に隠しながら、アレンは先を歩くに続いた。
三〇ノット…一ノットは一時間に1マイル(1海里とも/1852m)進むということ。
この場合三〇ノットとは約55km/h
おもかじ…面舵。艦首を右に向ける動作。左は取舵(とりかじ)。
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