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一週間も経った。まだの部屋が直ったと報告はこない。
on the bed
神田は訓練以外に殆ど自室から出てくることはない。
以前からそうそう教団内を出歩くことのない彼であったがが起きている時は談話室だの何だのに引っ張りまわされていることが多かった。
それを考えるといやにゆっくり落ち着いて食事ができる。
たまにはこう騒がしくないのも良いかもしれない、と神田は食後の湯呑みに口つけた。
「で、神田君。ルームメイトの眠り姫は様子どう?」
お茶の楽しみを邪魔する如く声がして、振り向くとコーヒーを啜りながらコムイがにやにやと笑っていた。
どう見ても面白がっている。
神田は聞こえよがしに舌を打って首を元に戻した。
「なーにーなーに。人には言えないよーなことしてるのぉー?」
「誰がするか。ちょっと縛ったぐらいだ」
「しばっ!?」
コーヒーカップが揺れてコムイの顔に黒い滴が飛ぶ。
それでもコムイは雫の垂れる眼鏡の向こうから神田を有り得ない奇怪なものを見るような目付きで凝視した。
するとコムイの後、食べ物の山の向こうから肩を怒らせたアレンがツカツカとやってきてどんとテーブルに手を突いた。
いきなりの音に驚いて一瞬食堂が静まる。
「神田、僕のこと人非人のように言っておいて自分はそれですか!」
「ヤだー神田君そんな趣味あったんだー? 意外ー」
アレンとコムイの声が重なって食堂に響く。
二人に挟まれた神田は湯呑みを片手で回しながら眉を顰める。
「……お前ら変なこと想像してんだろ。俺はただアイツの寝相が悪くてベッドから落ちやがるから縄で固定してやっただけだ」
空になった湯呑みがコツリとテーブルを叩く。
コムイは眼鏡外し、丁寧に拭きながら目をパチパチと瞬かせて取り繕うように笑った。
一方アレンは神田をじっと見て「信じられませんね」と首を振った。
「ア?」
「今からの様子を見に行きますので如何わしいことはないと証明して下さい」
「…ウゼェ」
頬を引き攣らせて心底面倒そうに神田が呟く。
「僕は見たものしか信じない主義なんですよ」
きちんと調べてきますから安心して下さいね、とアレンがコムイに言った。
ガチャリとノブが回されてそう明るくもない部屋に廊下からの明かりが差し込む。
ベッドの上の人物は言葉なく二人を迎えた。
「……」
「…よくこの状態で寝ていられますね」
白いシーツに包まれている少女の腕からは一本の点滴の管が伝う。
神田の言っていた通り、寝返りが出来る程度に簡単に縄で括られていた。
ただ二人が言葉を失ったのは少女は顔をベッドに押し付けうつぶせの状態で彼女が熟睡していることだった。
神田はの肩を掴んで手馴れた様子で反転させ、シーツをきっちり被せる。
横で見ていたアレンは無言のまま頬をかいた。
「おい、もう十分わかったろ」
帰れ、声に出されていない副音声がアレンの耳には聞こえた。
ただこのままハイそうですかと素直に帰るのも癪だったのでアレンが少しまごついているとシーツが鳴っての声がした。
「……ジェフ?」
聞きなれない名前に寝言かと思って見るとは座って目を擦っていた。
起きたらしい。
「おい、寝ぼけんな」
「…神田、何で居るの?」
覚醒しきれていないがとろんとした様子で応える。
素早くアレンがベッドに腰掛けた。
「おはようございます」
「…ん、おはよう」
ちゅ、と音をたててイギリス人二人が軽く挨拶をした。
横に居た神田が居心地悪そうに舌を打つ。
「ここ、……神田の部屋?」
ぐるりと見回してが首を傾げる。
神田は無言で立ち上がり鋏を持つとを縛っていた縄を切りゴミ箱に捨てる。
「ええ、そうですよ。は寝ている間ずっと神田の部屋にいたんです」
「へー。どのくらい?」
足を投げ出してが首をコキコキと鳴らして調子を確かめている。
「丁度一週間だ」
無線で医療班に連絡を入れて戻ってきた神田が低く答える。
アレンも頷くとは目を丸くした。
「ってことは私任務のえーと九日と七日の…十六日間もジェリーさんと会ってないのね!」
半月も! とが慌ててベッドから立ち上がろうとした。
するとの足はくらげの様にふにゃふにゃと折れ曲がりは重力の従ってその場でへたり込んでしまった。
「?」
変に思ったアレンがの横にしゃがみこむ。
「あれ? ……アレ?」
おかしいな、とが腕を突っ張って何度も立とうと試みるが、足が言うことをきかない。
立ち上がろうと試みるとする度、重心をかけようとする度に二本の足は力なく折れる。
「……立てない」
の苦し紛れの乾いた笑い声が小さく響いた。
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