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「じゃ、神田後よろしくー」
そういつもの様に笑っては意識を手放した。
寝台の上
久々にに任務があった。
パートナーとして選ばれたのは毎度の如く神田で、アレンは不服そうに二人を見送った。
バカのお守り係と間違えてるんじゃないかと神田はコムイに任務前に聞いてやろうかと思っていたがに手を引かれてさっさと船に連れていかれてしまった。
任務に要したのは九日間。
帰ってきて龍彦を着地させると案の定、艦長はその場で崩れるように眠りに落ちる。
頭が床にぶつかる前に抱きとめて、神田は少女を抱えて下船した。
玄関に入ると迎に来たらしい白髪の少年が神田を見ると駆け寄って来る。
「ご苦労様です。神田も疲れていますでしょうし、は僕が医療室に連れていきますよ」
至極胡散臭い笑顔の同僚に今俵抱きに肩に乗せている女を託すのもどうかと思えて神田はすぐ断った。
広い玄関を突っ切ると後ろから呪詛のような独り言が聞こえてきたが神田は無視してそのまま医療室へ向った。
「申し訳ございません、只今コムリン事件の負傷者でベッドが一杯でして……」
医療室に行くと医療班の一人がすまなさそうに言った。
一体何があったのかコムリン事件の単語だけでは見当もつかなかったのでコムイを締め上げようと、神田はを抱えたまま踵を返した。
司令室よりも自分の部屋の方が近かったので神田は一旦自室に戻ると鍵を開け、中に入った。
整然とした部屋に砂時計のような置物はまだ中で蓮の花を咲かせている。
花を確認すると、神田は荷物を置いてをベッドに落としまた部屋から出て行った。
シーツがくしゃりと鳴って寝言が聞こえたが神田は気にせず鍵をかけた。
「おっかえりー、んでもっておつかれさーん」
書類に埋もれた向こうから明るい声がした。
室長というポストにいる限り仕事はなくならないのだろう、ここに来ると未処理の書類が必ず一定分は詰まれている。
「医療室が一杯だそうだ。の部屋を開けろ」
どっかりと神田がソファに座り込むとコムイがペンを動かしながらも書類の向こうから顔を出した。
不思議そうに神田を見てコムイが首を傾げる。
「ちゃんは?」
「俺の部屋に置いて来た」
何でもないことのように言う神田に余計不思議そうに眉を顰めたが何か思いついたように口元だけで笑って見せた。
「神田君やーらしー」
からかうコムイの言葉に神田がかっと目を見開いて睨みつけるとコムイは萎縮したように肩を跳ねさせた。
「そこにある書類全部真っ二つにされんのと自分が真っ二つにされんのと、どっちがいい」
背負っている刀に手をかけ、神田が唸るように言う。
「どっちも嫌だよ! 精神的な攻撃も混ぜてくるなんてそんな成長しなくていいよ!」
コムイが立ち上がり山となっている書類を体で覆って庇う。
「るっせぇな! さっさとの部屋の鍵開けやがれ!」
神田が怒声をあげるとビリビリと空気が振動した。
「いやー……そうしたいのはやまやまなんだけどね」
コムイが書類に体を被せたままもったいぶったように歯切れ悪く呟く。
「コムリンが…いや、僕が作った機械なんだけど。ちゃんの部屋まで破壊しちゃってぇー」
神田が片眉を動かせコムイを睨む。今からでも世界を破滅させそうな殺意の篭った視線だ。
ひぃ、とコムイが小さく悲鳴をあげる。
「いや、あの、今頑張って修復中なんだけどね……その…修復作業が終了するまでちゃんを神田君の部屋においといてくんないかなー…なんて」
声を小さくしながら自分の身の方が大事だと感じたのかコムイが徐々にデスクの後にこそこそとさがって行く。
「アイツの部屋を破壊したコムリン作ったのはテメェだろが。テメェの部屋にでも置いときゃいいじゃねぇか」
「えー、そんな。仮にもちゃんは女の子で僕は男だよ? それこそ彼女今無抵抗なのに何するかわかんないよー?」
「俺だって同じだろうが!!」
怒鳴って立ち上がるとコムイが意外だと言いたげに目を丸くした。
「なんだ、神田君もちゃんとちゃんを一人の女の子と認識してるんだね。自分のベッドなんかに寝転んでたらやっぱり襲っちゃう?」
まぁ、君も男だしね、わかるよ。とコムイが勝手に頷く。
神田の額にみるみると数本青筋が浮き上がる。
「誰が襲うか!」
「そうなら安心じゃないか。ちゃんのことヨロシクね。如何わしいことはしちゃダメだよ〜」
「っ!」
嵌められた、神田がそう思ったときにはもう目の前の男は笑顔を浮かべながら実務に戻っていた。
部屋の前まで戻ると既に医療班の一人が点滴一式を抱えて所在なさげに立っていた。
「コムイ室長から連絡を受けましてさんの点滴をしに来ました」
赤毛で背の低い男が行儀良く頭を下げる。
部屋に入ると出た時と特に変わった様子はなかった。
ただベッドの上で何度寝返りを打ったのか、の服が徐に着崩れている。ズレた上着の隙間から白いシャツと白い腰が見えていた。
横で男が目のやり場に困ってか医療道具を持ったままから目を離して棒立ちになっている。
医療の場に立つ人間として果たしてこいつは使えるのだろうか、そう思いながら神田はシーツをの上から被せた。
「後でもう一つ神田さん用のベッドが運ばれてくるそうですよ」
シーツが被せられたことに安心して男が点滴の準備をしながら勝手に話し始めた。
は団服を丁寧に脱がせられて、下のシャツは片腕が捲り上げられている。
神田はイスに座って目を向けずに答える。
「そうか」
「まぁいくら神田さんとさんの仲が宜しいとはいえ年頃の男女を同じベッドにいれるのは問題だと室長も判断したんでしょう」
「仲が良い悪い以前に同じ部屋にいれることが既に問題だろ」
「違いないです」
喉の奥で笑いながら手際よく点滴針をの腕に刺す。すぐに血管に通ったのを確認しての腕をテープでグルグル巻いて固定し始める。
「きっとウォーカーさんが悔しがりましょう」
「何でそこにモヤシが出てくんだ」
神田が片眉だけ上げて問うとテープを丁寧に鋏で切りながら、男はくしゃりと笑みを浮かべて振り向いた。
「いえいえ。……それでは私役目は終わりましたので戻らせて頂きます。一日に一度交換に来ますので」
曖昧に答えて、赤毛の男が医療道具をさっさと直していく。
神田はそれを椅子の上から眺めていたがふとに目線を逸らした瞬間、外で大きな足音が鳴った。
「神田! 開けますよ!」
ノックも了承もなくドアが開けられ白い髪の同僚が同時に飛び込んでくる。
少年はドアも閉めずに部屋を一望してさっとベッドの脇についた。
「それでは、神田さん、さん、ウォーカーさん失礼します」
慇懃に礼をしてアレンと入れ替わりに医療班の男が部屋から消える。
アレンは今出て行った男の存在にも目もくれずマネキンのようなの手を両手で包んだ。
「、大丈夫ですか? 神田に何もされていませんか? コムイさんも何を考えてるんでしょうね、これじゃまるで狼の口の中に赤頭巾を放り込むのも同然ですよね」
返答の期待が少ない相手であるのに語りかけるように、それでも早口でアレンが捲し立て一頻りベッドの上を眺めた後ぐるりと首を回した。
「ということでの身の安全を考慮して、僕もこの部屋で寝泊り居ます」
喜色満面、といった笑顔だ。
反面それを無言で聞き流していた神田の頬が引き攣り額に青筋がむくむくと浮き上がる。
「帰れ!」
怒号にも似た声で神田が叫んだ。
「コムイさんには承諾を得ていますので安心して下さい」
「俺が許可しねぇ! 第一新しいベッド二つも入れたら邪魔になる!」
「いいですよ、僕がと同じベッドに寝れば問題はありませんね」
僕寝相いいですから! とアレンがベッドの縁に腰掛ける。
ギシリとスプリングが鳴った。
「その方が危ねぇだろ!」
神田が立ち上がりアレンの肩を掴むと強引にベッドから引き剥がしアレンを反対の壁へ放り投げた。
「なんですか、イギリス紳士の僕をつかまえて。そんなにと二人きりがいいんですか? 神田いやらしいですね」
そのまま転倒しかけたのをどうにか右足を軸にきゅっとターンさせてアレンが体勢を立て直す。
ベッドの前では神田が毘沙門天のように眉根を寄せ険しい表情で六幻に手をかけながら仁王立ちしていた。
「テメェ、表出ろ」
地響きのように低く呪いのように迫力を持った声が静かに響く。
アレンは足の感覚が徐々に薄れて行くのを感じながらうっすら笑みを浮かべた。
「暴力的ですね。ジャパニーズはもっと人の和を尊ぶものと聞いていたんですが」
「奇遇だな、俺もイギリス人は礼儀正しいと聞いていたが」
「……」
「……」
二人は指一本とも動かさずに睨みあう。
険悪な空気の中、の寝息と寝返る時の衣擦れの音だけが聞こえた。
「仕方ありませんね。神田、賭けをしましょう」
「トランプはしねぇぞ」
先に口を開いたのはアレンだった。神田の真っ当な返答にため息をついて肩の力を抜く。
「わかってますよ。修練所で模擬試合でも行いましょう。僕が勝ったらの部屋が修復されるまでここで寝泊りします。神田が勝ったら僕は大人しく自室に戻ります」
アレンが肩をすくめると神田も同意したのか、顎で部屋から出ろと指図した。
頷いてアレンが素直に廊下へ向う。
「恨みっこなしですよ」
「ああ。そうだ……な!」
バタム
アレンの目と鼻の先で勢い良く扉が閉められる。一瞬だけ風がふいた。
唖然としていると間髪置かず鍵の閉める硬質な音が鳴った。
「ちょっ……神田! 卑怯ですよ、開けてください!」
現状をやっと理解したアレンが閉められたドアに手をついてどんどんと叩く。
ドアの向こうで神田が叫んだ。
「誰がンな無駄な試合受けるか! 帰りやがれ!」
「神田、神田ッ!」
どんどん打ち鳴らされる度にドアが揺れギシギシと悲鳴をあげた。
神田は聞こえてくるいろんな音を無視してベッドの横に立つ。
かけておいたシーツがクシャクシャになっていたのできっちり直しておいた。
几帳面神田。ちょっと知能があがった神田。今回軍配は神田。結局一番被害被ってるのも神田。
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